「換弦」huànxián は、日本語の教科書では「移弦」と書かれていることがあります。
弓毛を外弦から内弦、内弦から外弦に移動させることです。
どうやって移動させるかというと、主なものは右手の中薬指、特に中指です。
薬指が主導になると、どうしても弓毛が琴筒から浮きがちになります。
主導は中指、薬指はその補助みたいな感じかなと思っています。
換弦の動きに際しては、これらの指の他にも副次的な動きが必要なケースもあるでしょうが、
特に基本をやっているときは、手首や肘の動きよりも、
まずは中薬指の動きを意識した方がいいかなと思います。
それが弓毛を移動させるための必要最小限の動きだからです。
次に、おさえておくポイントが2点あります。
1)外弦⇒内弦は「やる」、内弦⇒外弦は「やめる」
移動の基本は、外弦から内弦です。
なぜかというと、二胡の弓は、何もしないときには弓棹の重さによって自然に外弦に接触しているからです。
人間がやることといえば、基本的には中薬指を使って、外弦に接触している弓毛を内弦に接触させてあげることだけです。
じゃあ、内弦から外弦に移るときはどうすればいいか?
中薬指を使って内弦に接触させている、その動きをやめるだけです。
もちろん、「やめ方」にもいろいろあります。
乱暴にやめると、その反動で弓毛に弾みが付いて、ぼよよ~んとなることもあります。
また速度や強さなどによっては、「やめる」だけではなく、ある程度の弓のコントロールを必要とする場合もあります。
でも、基本は「やめる」です。
ちょっとした実験をしてみましょう。「賽馬」のピチカートにはいる直前に16分音符の短いフレーズがあります。最初は内弦から入り、2小節めの2拍めに外弦にいくと思うのですが、その直前にすべての動作を止めてみてください。
つまり、16(下の6)1232 までひいたら、左右の手のあらゆる動きをやめるんです。
やめたあと、まず弓毛がどこにあるかみてください。おそらく外弦に接しているのではないでしょうか。右手の中薬指の動作をやめたからです。
そして左手も弦を押さえるのをやめているので、左右ともども、次の開放弦3をひく直前の状態になっているはずです。
繰り返しますが、この移行の過程では、基本的になにかを「する」必要はありません。
直前までやっていたことをやめるだけです。
2)移動距離をきちんと把握する
『張韶老師の二胡講座:上巻』77頁には「§31 琴馬の弦槽の幅」という項目があります。
簡単にいうと「コマに刻まれた溝の幅」ということです。
張韶先生は「弓毛が200本だったら4~4.5ミリ」と書いてます。
とりあえず、いちど自分が使っているコマの溝の幅を計ってみましょう。
だいたい、そのくらいだと思います。
ということは、弦と弦の移動距離は5ミリもないということです。
このことはしっかり認識する必要があります。
換弦が大変だという意識の裏には、必要以上に外弦~内弦の距離を遠く感じているのが一因かもしれないからです。
3)換弓換弦と連弓換弦
換弦の種類には2つあります。換弓換弦と連弓換弦です。
初心者の時は「換弓換弦」からやります。弦を移動するとき、必ず換弓を伴います。
このとき、二胡の杉原先生に教わったのは、まずはひとつひとつの動作を、1動作ずつとめながらやる、ということでした。
つまり、拉弓ではじめ、弓尖まできたらいったんとめる。
次に、外弦から内弦にいく動作をしていったんとめる。
そして、弓尖から推弓で弓根まで戻って、いったんとめる。
最後に、内弦から外弦に戻して、いったんとめる。
つまり、ものすごく細長い長方形を描いている感じ、ということでした。
長方形の長いほうの辺が運弓の長さ、短い方の辺が換弦です。
この「とめる」というアイディアは、動作の分析や、気持ちの切り替えなど、いろんな場面で分析をするのに役に立ったものの1つです。
次に連弓換弦ですが、これも換弓換弦の練習と同様、最初、あるいはうまくいかないときは、1つ1つの動作を確認しながら行います。
つまり、連弓でも、換弦するときに動作をいったん止めるのがポイントです。
動きのイメージはこんな感じ。
そして慣れてきたら、止める時間を減らしていきます。
滑らかにひくときも、できるだけ小さい動作で近場にラクにさりげなくひょいと移る感じ。
これについては、面白いエピソードがあります。
むかし生徒さんとある曲をやっていたときのことです。
残念ながら具体的な曲名は忘れてしまったので、仮にこんなメロディとします。
(ほんとはもっと込みいったものだったのですが・・・)
(1=D)
2小節めはちゃんと最後まで伸ばせるのに、4小節目では弓が足りなくなる。
なんでだろう、と分析してみると、足りる箇所では換弦がなく、足らない箇所では連弓換弦があったんです。
ということは、換弦で弓を無駄遣いしていたことになります。
最短距離はAですが、換弦で無駄遣いすると、次の音の始まりがBになる。だから弓が足りなくなるというわけです。
もちろん、メロディはこんな単純ではなく、例えば外弦の方が内弦より弓を使うとか、他のいろんな要因がからまってくるとは思うのですが、このケースでは主な原因が換弦だったのです。換弦の練習を取り入れると、弓が足りるようになりました。
やっていることの「観察(情報集め)」「分析」はアレクサンダーテクニークでは重要なプロセスの1つです。
この換弦にさらに一定のスピードがともなうと、もう少し分析する要素が増えます。
このことについては、また次に書きます。
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一歩近づいても堂々としてる。
コメント
今、換弦の基礎からやりなおしをしています。「1動作ずつとめながらやる」というのは目からうろこでした。思っているよりもずっと丁寧に丁寧に練習しないときれいに弾けるようにならないのかもしれませんね。さっそく練習に取り入れてみます。
そうですね。ほか、換把やアクセントなど、いろんな技法で「いったん止める」というのは有効な方法だと思います。試してみて下さいね!