左手指の仕事とは?

 《コンテンツ》

●指はまあるくね
●必要最小限の仕事
●3つの利点

よく「指が動かないから速いとこがひけない」という話を聞きます。
いや、指は誰でも動きます。

イライラしたおっさんが、指で机をトトトトトト・・・・とたたいてます。
これはおそらく、楽器経験者でなくともできることです。

たぶん、このブログを読んでいるあなたにもできるでしょう。

指は動きます。
それを妨げる無駄な力さえ減らせれば。

指はまあるくね

子どもの頃、ピアノを習っていました。

よく左のような指になりましたが、
そのたびに先生から「指はまあるくね」とか言われて
右のような形に直したような気がします。

(子どもだったから具体的にどう言われたか忘れました)。

で、二胡の左手も同じように言われると思います。

そのことについて考えてみたいと思います。

まずは、指の関節名を載せておきます。

アルファベットの羅列はすごくわかりにくいです。

でも、もし日本語で書くとこうなります。

(『ピアニストならだれでも知っておきたい「からだ」のこと』107p参照)

・DIP関節=末節中節関節、または遠位指節間関節(Distal interphalangeal joint)
「末節中節関節」は、他の関節の名付けられ方(体幹に近い方から並べる)でいうと、中節末節関節ではないか、と思うのですが、とりあえず本に従っておきます。
・PIP関節=基節中節関節、または近位指節間関節(Proximal interphalangeal joint)
親指にはない関節です。
・MCP関節=中手指節関節(Metacarpo phalangeal joint)
手のひらから見たときのこの関節の位置に注意してください。
親指側の生命線・知能線(頭脳線とも)の始まりと、小指側の感情線の始まりを結んだ線あたりにあります。
・CMC関節=手根中手関節(Croximal interphalangeal joint)  手のひらの手首よりの部分にある

私自身、この3つのアルファベット名をなかなか覚えられません。
なので、いつも『ピアニスト・・・』のこのページに付箋を貼っています。

いい加減に暗記できないかな。

必要最小限の仕事

さて、関節名をチェックしたところで。
私たちは左手の指で、主に何をしているのでしょうか?

ちょっと考えてみてください。

答えは、「弦の振動を止めること」だと私は思っています。

たとえば、左手の指が弦に触れてない状態で、弓でこするとします。
すると、千斤とコマの間で弦が振動します。

もし、振動している弦の半分のところを指で触ると
振動は指で止まるので、弦は指とコマの長さで振動します。

弦の長さが短くなるので、開放弦より速く細かく震えます。
すると、高い音がでるのです。

(弦の長さが2分の1になると1オクターブ上の音がでる)。

ただ振動を止めるだけ、これがポイントです。

例えば、いま机に音叉をぶつけて、ぷーんと音を鳴らしたとします。
この音叉の二股に分かれた部分のどっちかを軽く指で触ると
ちょっと指先がむずむずっとしたあと、音が止まります。

音叉の場合は、しっかり触ったほうが、音がすぐ止まるみたいです。
でも、弦の太さは音叉よりもずっとずっと細いです。
なので、ごく軽く触れるだけで振動は止まります。

もちろん、あまりに軽く触れすぎても倍音や変な音が鳴ったりしますが、
でも、変な音が鳴らないようにと、むやみに力を入れて触るのではなく、
まずは必要最小限の力で触れてみて、
変な音が鳴ったら、少しずつ力を加えていって、
このくらいの力だとちゃんと音がなる、という加減を
自分で見つけてみたらいいと思います。

で、振動を止めるだけだったら、一本指で触っても、手の甲で触ってもいいのですが、
効率よく、いろんな長さにするため、四本の指を使って触ります。

左手指の基本的な仕事はそれです。

で、ちょっと話がずれますが、このDIP関節がまがるまで
力を入れて弦を押さえてしまうのは、そもそも
教科書などに「弦を押さえる」と表現されていること
それ自体に、誤解を生む余地があると思います。

同じようなことを張韶先生もおっしゃっています。

中国語でも「按弦 àn xián」といういいかたをしますが、
「按」は「按电铃 àn diànlíng」(ベル・呼び鈴を押す)のように、やはり「押す」なんです。
ボタンがひっこむまで押さえ込むイメージです。

でも、「按弦」と聞くと、初心者の方はどうしても弦を押さえてしまうから
「触弦 chù xián」つまり「弦に触れる」でもいいのではないか、と
おっしゃっておられるのです。
(『張韶先生の二胡講座:上巻』の§32(82p))

だから、この文章でも、なるべく「触れる」と言い換えました。

3つの利点

振動を止めればいい。

そういう寒天、いや観点から、もう一度さっきの2枚の写真を眺めてみます。

上記左の写真は、DIP関節が曲がっています。
これは、力が入っている証拠です。

なぜなら、この関節は、自力では曲げられないからです

(指を伸ばした状態でなら、ちょこっと曲げられる方もいるかもしれません。
でも、ふわっと力を抜いた状態で、指先の関節のみを動かすのは
おそらく無理じゃないかと思います)

指をMCP関節から曲げ(ここがいちばん楽に動くから)、
指が弦に触れたところで動きをやめる。

そのくらいで十分なんです。

なにより、無駄な力を使わなくていい、
言い換えれば、「振動を止めるのに必要最小限の力を使うだけでいい」。

これを実行する利点が3つ有ります。

1 素早く動ける

必要最小限の力しか使わないことで、筋肉の無駄な緊張を減らし、
すばやく動かすことができます。

逆にいうと、無駄な力をかけ続けながら
無理に速く動かそうとすると、指を痛める原因にもなります。
なので、この力の加減をコントロールすることで、
それを防止する一助にもなるでしょう)

2 シンプルに動ける

もう一つ大事なポイントを1つ挙げておきます。
DIP関節を曲げると、指の動作に余計なワンアクションが加わってしまうのです。

曲げるまで押さえた場合(上)と、ただ触れただけの場合(下)の動きを比べてみてください。


DIP関節を使わないほうがシンプルに動くことができるのが分かると思います。

このことで、バイオリンタイプのビブラート(=滚揉)もやりやすくなるでしょう。
このタイプのビブラートは、手のひらを含む手全体の動きによって、
DIP関節の曲げ具合が受動的に変化することによって起こります。

しかし、
DIP関節が逆に曲がるという余計なワンアクションが加わると、
ビブラートも「かっくんかっくん」となってしまいます。

また、泛音(ハーモニクス)のときの
「実按」から「浮按」への移行も
よりスムーズにできますよね。

3 豊かな響きが得られる

力を入れて振動を止めると、振動が完全に止まってしまいます。

でも、必要最小限の力で振動を止めると、
弦が触れているところで、弦の振動を感じます。
つまり、完全に振動を殺していないのです。

前に、音叉を触る話をしましたが、
音叉をお持ちの方は、もう一回やってみてください。

鳴っている音叉を触ると、指がむずむずっとする。
弦に触れるときも、そのくらいの力加減でちょうどいいのです。

この残った振動は、指を伝わり、自分全体に伝わります。
また、弦を伝って、楽器全体に伝わります。

そして、空気を伝わり、相手の耳に伝わります。
それが、いま鳴っている音だけではない、豊かな響きをつくるのだと思います。

同じことが右手にもいえますが、これはまた次の機会に。

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春の日差しをあびて気持ちよさそう。

このねこは前に登場した↓のやつと同一人物、いや同一猫だと思う。

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