マンツーマンのワークショップ
「新型コロナ」こと「コビ」くんが流行し、基本のうがい・手洗い・マスクにアルコールをおともに(飲む方じゃなく吹き付ける方です)する日々。
「正しく怖がる」というけど、みんなが一番恐れているのは「自分が感染しててそれを広めてしまったらどうしよう」だと思います。
今回のワークショップのキャンセルの中にも、そういう方がいらして、その気持ちは痛いほど分かるんです。
もともと参加希望の方はそう多くなかったので、みなさんがこられなかったら、会場でワークショップのリハーサルをして、あとは二胡を練習しようと思っていました(自宅では弱音器を付けねばなりませんから・・・)。
入り口でセンターが用意しているアルコール消毒液をシュッ。
会場では、手に触れそうな部分(ドアノブとか、いくつかの椅子や机、ホワイドボードなど)を持参したエタノール消毒液で拭きます。すると、特に椅子は、エタノールを吹き付けた「手のひら掃除ミトン」(フェリシモのおまけでもらった)がまっくろに。ちょっと汚れが取れて綺麗になった椅子を見て、自分の部屋は片付けられないのに、学校の掃除の時間は熱心にやっていた「三つ子の魂」が火を噴きそうになりますが、いったん気持ちをぐっとこらえます。
いやいや、まずは会場の準備をしよう。
窓を開け放ち、ドアに椅子をかませて閉まらないようにして換気。
外は雨。
受付でお願いしていたレジュメのにコピーをとりにいき、持参した資料・アンケート用紙と一緒にバインダーに閉じ、持参したスケルトム君、いくつかの小道具を並べ、名札・・・を出そうとして、もう今回はいいかと思い、譜面台を組み立てて、そこにワークショップの手順や資料をとじたバインダーを立て、スマホやガラケーをチェックしたあと、ちょっと楽器を弾いて練習していました。
やはりきょうは誰も来ないかな・・・。
そしたら、お一人がひょこっと顔を出して下さって、なんとか無事、ワークショップを開催することができたんです。
ああ、講師という仕事は、一人では成り立たない。
生徒さんや参加者さんがいてこそなんだ。
そう、しみじみと実感しました。
かくして、人生初のマンツーマンのワークショップ!
まったり、というのは、できるだけワークショップは2時間に収まるよう計画しているのですが、なかなかうまくいかず、とくに、からだ系列のワークショップ2つめの「左手編」(次項参照)は、内容を詰め込みすぎて、完全に時間配分をミスってしまうというポカがあったのです・・・。
今回はお一人で、予定している3時半にきちっと終わらなくても時間的余裕があるとおっしゃってくださったので、ちょっと安心して、雑談からまったりと始まりました。
楽器のマッピング
このワークショップは、二胡に必要なマッピングを主眼としています。
まず「右手編」で身体の軸(頭・脊椎)と腕、「左手編」で腕と指を主に扱いましたが(さらに、そのときに「自分全体を思い出すこと」も)、今回の「楽器編」は二胡(楽器と弓)のマッピングがメインテーマとなります。
前半のメインは弦楽器の原理となる「ピタゴラス音律」。
これは、実は『張韶老師の二胡講座』の翻訳で最も難儀した部分だったんです。
中国語の単語を、日本語に移すことはなんとかできた。けど、日本語に直したその内容がさっぱり分からない・・・。
私は、学生時代に中国古代史を専攻しましたが、卒論のテーマを決めるのにすごく迷っていました。子どもの頃にピアノを習ってたり、ブラバンやってたりと、音楽が好きだったので(そのころまだ二胡はやってなかった)、なんか中国の音楽に関わることができないかな、と、中国音楽に関わる本を読んだり買ったりしていました。
しか~し! 中国音楽史の本には、いっつも「音律」の話が出てきます。律呂(いわゆる「ろれつが回らない」の「ろれつ」は、これをひっくり返した)だの、宫商角徴(ち)羽だのそれが陰陽五行説がなんやら、三分損益法がなんやら律管がなんやら、さらに訳分からん数式が出てくるし、「亡国の音」だの「靡靡(びび)の楽」だの、これ、音楽をテーマにするの無理っぽい、と(結局、テーマは七部伎や九部伎のルーツを遡るというものになりましたが、内容はさっぱり忘れました)。
その、ウン十年前の本を引っ張り出し、ネット検索し、図書館で調べ、さらに本も買い、等々、翻訳の際に必死に懸命に調べた内容を、上巻162-163ページのコラム「音律について」にまとめました。
いまでも、このページの内容を、自分が100%理解できているとは思いません。
しかし、卒論当時には知らなかった弦楽器=二胡を長らくひいてるうちに、少しずつ消化できていった部分もあります。特に
弦楽器は弦を分割して音を作っている
ってことは、二胡という楽器を形作る本質の部分なので、この楽器と親しむうえで、ぜひ知ってほしいなあと思う知識でした。
だから、ややこしいけれども、それをワークショップでぜひシェアしたいと思ったのです。
初回は毛糸を切りながらやりましたが、今回はセロテープ状の付箋に変えてみました。
他の部分の板書も混ざってますが、↓な感じです。
この延長で、倍音のことなども触れました。
弓のマッピング
そして、右手編・左手編で、腕や指のマッピングをやった続きとして、「弓のマッピング」もやりました。
外弦と内弦でバランスの取り方や指の役割が違うこと、腕の重さと弓の重さ・・・等々。
でも、なにより重要なのは「弓が手の延長であること」だと思っています。
ニンゲンは道具を使えるイキモノです。たまに、サルとかカラスとかも道具を使いますが、道具を使えるための条件として、その道具が自分の身体の延長だと考えられることが大きいのではないかと思っています。
手が届かない果物を、棒を持ってつつく。そのとき、棒は自分の手の延長なんです。
同じように、手に持っている弓で弦をこする。そのとき、弓は自分の手の延長なんです。
こすった手応えは、弓を通じて、自分の手に伝わっています。
弓を動かす時、弓だけではなく「自分全体」が動いています。
ほんとうに、あたりまえっちゃあたりまえのことなんだけど、時々、それを思い出して欲しいのです。
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今回、この「二胡を楽しむ:楽器編」をもう一度開講します!!!
そして、その日の午後には、これまでの一連のワークショップの総集編を行います。
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以下は、ご参加いただいた方々の声です(掲載可の方のみ)。
※がついている箇所については、私の方でコメント末尾で補足しています。
☆haru様
弦を分割して、音程を知る。
なかなか普段使わない左脳を使った気がします。論理的に音を捉えることも必要ですね。
「弓のマッピング」では、内弦は中指の延長!だと言われハッとする。
運弓もパーツに分けて考えると、より理解し易くなり、正確にボディマップする事で、無駄なクセが取れていくのでないかと思い。又ハッとしました。
日頃、何気に湧いてくる疑問に毎回応えて頂き有難うございます。
今回もたくさんプレゼントを頂きました。早速練習します!
【いのうえから補足】
今回はharuさんのおかげでワークショップが開催できて感謝しています!
確か終了後の質疑応答のときにおっしゃった、「ひいているうちに腕が身体の水平軸より後ろに行ってしまう」という点について、曲54 四種換弦方法的練習(2017/07/08更新)に載せた図を、↓に再掲します。
特に、右側の方の図を見てください。
擦弦点(弓毛と弦が出会うところ)は、自分の身体の前方にあります。
そして、弓の軌道も、自分の身体の前方にあります。
だから、基本的には、右肘が背中のライン(黄色の線の背中側)を越えて、大幅に後方に引くってことはあんまりないかな、と。
いろんなことは、身体の前方で起こっている。
それをただ「知る」だけで、動きが変わることもあるかな、と思っています。