「農村之歌」覚え書き

(約)20年後の新事実

「農村之歌」は陸修棠の作品の1つです。

が、彼の代表作としては、やはり「懐郷行」(huáixiāngxíng)」のほうが有名ですよね

(王国潼作曲「懐郷曲」という別の曲とよく間違えられたりしますが・・・)

陸修棠のプロフィールや「懐郷行」の紹介などについては、『張韶老師の二胡講座:上巻』(改訂版準備中)の41ページや42-43pなどにあります。

***

私自身は、2001年1月に周耀錕先生からこの曲のレッスンを受けました。

けど、やはり「懐郷行」にくらべ、印象の薄さは否めませんでした。

んで、あれから約20年後、初めてこの曲を生徒さんと一緒にレッスンすることになりました。

そこで気づいた衝撃の事実・・・

『二胡を極めよう:第5集』所載の譜面と違ってる~~!

そこで、両者のルーツを探ってみることにしました。

楽譜探偵、始動

まずは、以下のように定義します。

・2001年の周先生のレッスン時にいただいた譜面→A版

・『二胡を極めよう:第5集』所載の譜面→B版

さあ、周先生のレッスン譜からとりかかります。

周先生のレッスンでは、主に『中国二胡考級曲集』(王永徳主編、1995年)を使っていました。

この本はのち何度も版を重ねますが、当時使っていた1995年版には「農村之歌」は掲載されておらず(その辺のことついてはすこしこちらにも書いています)、コピー譜をいただいていたのです。

で、家にある楽譜をいくつも抜き出して、辛抱強くめくっていくと、あ、これが原本だというものを見つけました。

『全国二胡演奏(業余)考級作品集(第二套)』の2巻です。

(同じシリーズの第一套に比べて、第二套はちょっとマイナーかも・・・)

ほら、楽曲の番号まで同じなので、たぶんこれで間違いないです。小節のレイアウトなども確認しました。

にしても、当時ひらがなをがんばって練習していた周先生の直筆の文字が懐かしくてたまりません・・・・

***

次は、賈さんのバージョンと同じやつ(B版)を探します。

私がもっている譜面で一番古いやつはこの『二胡曲集(合訂本)』の1ー5集です。出版は1997年。

あー、中国の本にありがちな「袋とじ」現象だぁ・・・

(こんなんでいちいち返本してたらやってられへん)

王先生の教科書も、私が持っている一番新しいバージョン(2013年)にはちゃんと「農村之歌」が載ってました。でも、こちらもやはりB版です。

別の所に置いているもっと古い版のものにも掲載されていたので、たぶん、「農村之歌」を収録されたのは、2013年よりももっと前のことでしょう。

くらべてみよう

では、A版とB版の何が違うのか、具体的に比較してみます。

1)出だし部分

A版は最初から最後まで四分の四拍子です。

B版は最初の2小節が三拍子で、A版の第4拍が削除されています。

3小節目以降は二拍子に変わっていますが、ここは音符の数は同じです。

2)【二】農村風光

A版は【二】の最初のメロデイが、四分の三拍子が2小節、あとは四分の二拍子になっています。

一方、B版はぜんぶ四分の四拍子に統一されています。

3)尾声

ここにも拍子の違いが見られますし、そもそも最後はメロディから違っています。

↓はA版。

↓はB版。最後のところは写っていないけど、デクレッシェンドで消えていくA版とは真逆で、B版の方はクレッシェンドで力強く終わります。

まとめ・・・られるか?(思い出の重さって・・・)

で、結論からいうと、たぶんB版のほうがいま普及しているのではないでしょうか。

というのは、あくまでも私の手持ちの譜面に限りますが、どうもB版の方が優勢のようだったからです。

また、二胡協会系の『二胡を極めよう:第5集』や、二胡振興会系の『二胡検定標準曲集:中級編』など、日本で出版されたテキストはどちらもB版を採用しているので、おそらく、今後の日本ではA版の「農村之歌」は少数派になるでしょう。

(この曲を習った方、習っている方、いかがでしょうか?)

かつ、B版の中国語版(王先生テキストや二胡曲集合訂版)には、以下のような注意書きがあります。

この曲の初稿は1943年に作られ(中略)、1953年に旧稿を補充・改変して完成した(後略)。

もしかしたら、A版は改訂前か、いくつか改訂を重ねた途中のバージョンで、けっきょく最終稿はB版になったのかも?? B版の譜面の末尾にこう書いていたのですから、B版がたぶn最終稿なのですよね?

だから、みんな、B版の方を採用するのでしょうか・・・・。

ただ、私の「農村之歌」は、(他の曲とくらべてわりと印象が薄かったはいえ)やっぱりA版なのですよね。

私自身、どちらがより音楽的な譜面なのか、よくわかりません。音楽の専門家は判断できるかもしれませんが。また、陸秋棠がもしB版を最終稿として定めたとしたら、作曲者の意思を尊重すべきだと思います。

しかし、周先生との思い出分の重みが、A版にはあります。

記憶とは恐ろしいもので、特に、【二】の最初の部分を四拍子で歌ってみると、すごい違和感がありました。

音符はまったく変わっていないのに・・・私の中は、ここは三拍子でとらえているので、どうしても四拍子って感じにならないのです。

拍感って、ほんとうに大事なんだな、と改めて再認識した次第です。

また、周先生がどうしてB版を採用しなかったか、です。

私が持っている譜面の中でも、B版の一番古いものは1997年です。

先生はこの譜面の存在をご存じなかったのか、それとも、見比べてみた結果、やはりA版を日本の生徒たちに伝えたいと思ったのか・・・

いまとなっては知るすべがないのが悲しいです。

(最後に、ちょっとしんみりしてしまいました)

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