「脱力」について考えてみる

※これは2021年2月9日のツイートの内容を大幅に加筆・改稿したものです。
もとのツイートはこちら

昔の「思い込み」

昔は、演奏に「脱力」が必要なんだと思い込んでいたこともありました。

「肩の力を抜いて!」とか「腕の力を抜いて!」とか言われたら、いったん上にひきあげ、そのあと力を抜いて重力にかませて勢いよくズドンと落とした後の、腕がぶらーんとした感覚・・・アレを求めていたような気がします。

しかし、本当に脱力した腕では、演奏すること、いや、楽器をひくために腕をセットすることすらできないんです。

また、ある部分を脱力することによって、逆に、別の部分にムダな力が入ってしまうこともあります。

引き下げることの弊害

そもそも、肩周りには、狭いスペースに指や腕につながる筋肉や神経や血管などがぎゅうぎゅうに通っています。

興味がある方は「胸郭出口」で画像検索していただきたいのですが、たとえば、いまランダムに調べてみたら、いくつかの画像のうち、このページの二つ目の図などが分かりやすいかな、と思いました(文章の内容は直接の関係はありません)。

そこを押し下げたらほんとうに大変そうって感じがしませんか?

もちろん、指を動かす神経もそこを通っていますから、腕を引き下げすぎてここを圧迫すると、いろいろ影響が出る可能性もゼロではありません。

二種類の筋肉

さて、バラバラの骨格でできている構造を、バランスをとりながら繋げ、支えているのは主に筋肉、の働きです(さらに、最近では「筋膜」という概念も見直されていますね)。

この筋肉には、二つの種類があります。

・支える筋肉:おもに、身体の内部(奥の方)にあります。あまり力は出せませんが、持久力があり、疲れにくいです。

・動かす筋肉:おもに、身体の外部(表面の方)にあります。瞬間的に力を出せますが、持久力があり、疲れやすいです。

支える筋肉は、私たちが目覚めているときには、特に意識していなくても、常に働いています。
支えるのに一番重要なのは「頭」を支えることです。

身体のてっぺんにある頭を、脊椎のてっぺんでうまくバランスさせておくこと。
そうしておくと、身体の他の部分もうまく動きます。

この仕組みは、起きている時はずっと働いています。
だからそれが働いていない、寝ている子どもは、起きてる子どもより重く感じます。

しかし、完全に眠ってしまわなくても、うとうとしていて意識が薄れかけるだけで、頭ががくっと落ちてしまいますよね。バランスって大切なのです。
その大事なバランスを、起きている時でも失ってしまうときもあります。
猫背になったり、パソコンや譜面をのぞき込むようにして首を突き出し続けているときです。

そんなとき、頭が首からぽろっと落ちてしまう(怖い・・・)のを、私たちはどうやって阻止するのでしょう?
それは、やむをえず、「動かす筋肉」が頭が落ちないように頑張るんです!

これは、ある程度筋力がある大人だからできることです。
ほんとうに小さな子は、ただでさえ重たい頭(大人とは等身が違って、頭の割合が大きいですし)を支える筋力はありません。
だから、逆にとても姿勢が良いのです。

猫背になったり、頭を突き出してしまうと、もう支えきれないから。

また、そもそも二足歩行ではない動物が2本足で立つときにも、とても姿勢が良いですよね(レッサーパンダの風太とか)。それも同じ理由なのです。

前に述べたように、「動かす筋肉」は力は強いですが、持続力はないです。

なので、すぐ疲れてしまいます。これが、肩こりなどの原因になりえます。

さらに、頭を支えるために動員される「動かす筋肉」たちの中には、ほんらいの仕事が「腕を動かす筋肉」であるものが多いのです。

私たちは演奏に腕を使います。しかし、そのための筋肉が頭を支えるのに頑張っていると・・・? なんか、大変そうだなと思いませんか?

だから、演奏のために、いや、日常生活を含めて、いろんなことでうまく身体を使うためには、頭をうまく脊椎のてっぺんにバランスさせる必要があるのです。

脱力ではなく、バランス

バランスが必要なのは頭だけではありません。

前の方に、

バラバラの骨格でできている構造を、バランスをとりながら繋げ、支えているのは主に筋肉、の働きです。

と述べましたが、身体が支えているのは頭だけではありません(もちろん、頭がいちばん大変だし、大事なんですが)。

リカちゃん人形(私が持っているのははるみちゃんでしたが)が自力で立てないのに、なぜヒトは立てるかというと、全身で・全体で、バランスを取っているからです。

膝関節とか骨どうしがぜんぜん噛み合っていないし、脊椎なんて小さい骨(と椎間板が)が交互にS字方に積み上がっているだけです。それらがぜんぶ、バランスをとって、支え合っているのです。

だから、例えば腕だけを脱力すると、腕全体ですこしずつ協力しながら腕の重さを支えることができず、肩周りの筋肉がその重責(文字通り重そう…)を担うことになってしまい、余計な負担がかかってしまいます。
また、人の筋肉はバランスを取って構造を支えてる。片手をあげたら脇腹や背中も胸も動くし、体幹と接続されている胸鎖関節も動くし、身体の重心も変わるから下半身がバランスを取り直し、もちろんその動きは上体全体に伝わっていきます。

身体の一部でも動けば、それは大なり小なり自分全体に影響を及ぼすのです。

でも、その動きのリレーの途中で、動かないところがあれば、リレーはそこでとまり、そこをカバーするために他のところが働かざるを得なくなります。
だから、「脱力」は、少なくとも「動く」「活動」する状態とは相性が良くないのではないか、と思うのです。

ていうか、眠っている時以外、ヒトは実に細かく動いているんです!

ただ立っているだけでも、ただ座っているだけでも。

演奏はそれらよりもっともっと積極的に「動く」んですから、いわゆる「いい姿勢」のカタにはめようと、身体を固めてしまうと、なかなかうまくいかないんですよ。

まとめ?

バランスのツボは、頭の載せ方。

部分ではなく、自分全体が協調し合って。

バランスをとりながら、バランス良く使う。

脱力ではなく、うまく使うために必要な支えを考えること。

そして、わたしたちはつねに、動いているんです。

*****

ねこのしなやかさには、いろいろ学ぶことが多い。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする