中国音楽の調と主音と調式

●「レ」で終わる曲

●主音は5つ

●調と調式

「レ」で終わる曲

わたしたちが二胡を習い始める時に、きっと大半の方が初級の段階で「鳳陽花鼓(凤阳花鼓 Fèngyáng )」の「暗い方」を学んだのではないかと思います。

「暗い方」は、中国の二胡テキストにも、日本の二胡テキストにも多く掲載されている、わりとポピュラーな安徽省の民謡です。

「鳳陽花鼓」には同名異曲があり、私は勝手に「明るい方/暗い方」という区別をしていますが、その説明や、いろんな音源については、こちらを参照してください。

さて、むかし、その「暗い方」をひいた生徒さんが、「レ(数字譜の)でおわる曲って珍しいですね」とおっしゃったのです。

多くの曲は、階名のドかラで終わって、

・ドで終われば明るい感じ→長調

・ラで終われば暗い感じ→短調

なんか、そのようなふんわりとした記憶があるのではないでしょうか。

この、ドとかラとかいう音を、「主音」といいます。

多くの曲が(もちろん、例外はたくさんありますが)最後は主音で終わるので、

てっとり早く主音を調べるには、最後の音をみればいいと言われています。

そして、学校の音楽の授業で学ぶような一般的な曲で、階名のレで終わる曲=主音がレである曲はほとんど無く、たいがいはドかラに収まるのです。

(ただし、私の学校音楽の知識は昭和にとどまっていることをお許しください)

その生徒さんは、たぶん、小中学校で学んだそういう音楽の知識が、なんとなくアタマにあったのかもしれませんね。

主音は5つ

さて、階名レで終わる「鳳陽花鼓」の主音はレです。

中国の民謡(というか、民謡を含む中国伝統音楽)の主音は、5つあります。

12356(ドレミソラ)の全てが主音になることができるのです。

そのかわり、私たちが学校の音楽の授業で習ったような、長調・短調の区別はありません。

思い出してください。たとえば、ト音記号の横に調号が無い時、ふつうはハ長調かイ短調です。ドで終わったらハ長調、ラで終わったらイ短調ですね(この関係を平行調といいます)。

(以下の話は、「五度圏」を思い浮かべると分かりやすいと思います。例えばこちらなどをご覧ください)

♯が1つで、主音が実音ソ(階名ド)ならト長調、主音が実音ミ(階名ラ)ならホ短調。

けど、二胡ならどちらもG調。

♯が2つで、主音が実音レ(階名ド)なら二長調、主音が実音シ(階名ラ)ならロ短調。

けど、二胡ならどちらもD調。

♭が1つで、主音が実音ファ(階名ド)ならへ長調、主音が実音レ(階名ラ)なら二短調。

けど、二胡ならどちらもF調です。

そういえば自分が初めてF調を習った時のことを思い出します。

一番最初にやったのが、「F調上把練習」(張韶曲)でした。ひいたとき、「え、これd-moll(ニ短調)なのでは?」と思いました。なのに、「F調」という題名がついています。

え、長調・短調を区別しないで、全部F調って言っちゃっていいの? っちゃラクやん~!

と歓喜(?)したことを懐かしく思い出しました。

調と調式

ここでめでたしめでたしと終わりたいところですが、勘の良い方は「ちょっと待てよ!」と思いませんでしたか?

さきほど

♯が2つで、主音が実音レ(階名ド)なら二長調、主音がシ(階名ラ)ならロ短調。

けど、二胡ならどちらもD調。

と言いましたが、ならば二胡のD調の主音は何でしょうか?

実音レ(階名ド)でしょうか?

必ずしもそうではないですよね。先ほど「鳳陽花鼓」が階名レで終わる話をしたばかりです。

田園春色」は階名ド()で終わりますが、「鳳陽花鼓」は階名レ()、「」は階名ソ()「紫竹調」は階名ラ()で終わります。

(上の曲名をクリックすると譜面付きの動画がでます。この紫竹調の二重奏は『張韶老師の二胡講座・下巻』所載の張韶先生のアレンジ版ですね)

では、D調で、主音がそれぞれド()、レ()、ラ()の場合、どう呼び分けるのでしょうか?

こたえは、D調1調式、D調2調式、D調6調式です。

ただ、これは簡略化された言い方で、正式には、もっとかっこよく言います。

D調1調式→D調宮調式

D調2調式→D調商調式

D調6調式→D調羽調式、です。

これは、ドレミソラ(12356)の5つの階名に、「宮、商、角、徴、羽」という、みやびな名前がついているからです(徴はチョウではなくチと読みます)。

この5つは、中国の陰陽五行説に対応しています。

音の体系も、五行の世界観の中に包摂されているのです。

そう考えると、なんか不思議な感じがしますね。

※以上は、2025年4月29日の旧ツイッターの投稿をもとにしたものです。

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