ビブラートの話-1

コンテンツ

●ビブラートとは何か
●揉弦(ビブラート)の種類
●知っておきたい3つの豆知識

ビブラートとは何か

私は子どもの頃ピアノを習い、中高のブラスバンドではクラリネットを担当しました。同じ管楽器のサックスやオーボエ、フルート、金管楽器と違い、クラリネットはふつうビブラートをかけません(ジャズ等を除く。なぜなんでしょうね?)。つまり、初めて接した「ビブラート」をかける楽器が二胡だった、という訳です。

で、そもそもビブラートは何でしょうか。

めんどくさがりの私は、とりあえずネットで調べて見ました。すると、例のごとくWikipediaにヒットします。語源はイタリア語「vibrato」で、「演奏・歌唱において音を伸ばすとき、その音の見かけの音高を保ちながら、その音の特に高さを揺らすこと」とありました。

「特に高さ」が気になったので下の方を見ると、ビブラートには「音量の揺れと音高の揺れ」の2種類あるそうです。なるほどね! この分類によると、二胡の揉弦は「音高」「音量」の2つのうち、「音高」の揺れに相当することが分かります。

(音量を変えて波を作り出すのは、二胡の技法に当てはめれば「浪弓」になりますかね・・・)

さらに、イタリア語vibratoは「振動」という意味だそうですが、中国語では「揉弦(róuxián)」と言います。イタリア語はビブラートをかけた音の「状態」をいい、中国語ではビブラートをかける「動作」そのものをいいます。さすが、動詞を重んじる中国語、てな感じです。日本語にするとまんま「揉み弦」。弦をもむように見えたんでしょうね。

揉弦(ビブラート)の種類

『張韶老師の二胡講座:上巻』127pでは「揉弦」をこう定義しています。

指先で弦の長短や弦の張りを変えることで音を波打つように変化させることを「揉弦」と言います。(中略)音を美しくするだけでなく、楽曲の感情を豊かに表現できるのです。

で、どうやって音高を変えるか、ですが、張韶先生の上の定義では、二胡のビブラートは「弦の長短や張りを変え」て行うとあります。

弦の長短のみを変えるのは「滑揉」、張りのみを変えるのは「圧揉」といい、どちらも地方的な特色をもつものです。

以前のビブラートはこの2種類しかなかったそうですが、西洋の音楽が入ってきて、中国でも1900年代初期から中国国内でもバイオリンの教育が行われるようになりました(『中国小提琴音楽』43p)。

中華人民共和国成立後は、二胡界でもバイオリンのメソッドや技巧を研究し、それを積極的に二胡に取り入れる動きが活発になってきます。おそらく、バイオリンビブラートもそのころに本格的に研究されたのではないでしょうか。

そして、バイオリンビブラートをもとにした新しい二胡の「揉弦」は「滚揉(gǔnróu)」と言います。これまでの「滑揉(弦のうえを滑らす)」「圧揉(弦を押さえる)」に比べ、新しいビブラートは「滚揉(弦の上を転がる)」ようにみえたのでしょう。いまでは、「揉弦」というとふつうは「滚揉(gǔnróu)」のことを指すようになりました。

ということで、以下の文章では「揉弦」といえば基本的に「滚揉(gǔnróu)」を指します。

知っておきたい3つの豆知識

では、「滚揉(gǔnróu)」とはなにか。

中国人が観察したように、バイオリンビブラートは、指が左にゆれて戻り、右にゆれて戻りを繰り返すので、弦に接した指の部分がコロコロと転がるように見えたのでしょう。

それを二胡に移すとどうなるか。

まず、弦の長さが変わります。

下は『張韶老師の二胡講座:上巻』127pに載せた図の一部です。左の写真と右の写真の位置関係がずれて、何遍も撮り直したり、慣れないフォトショップを使って四苦八苦して線を入れたりと、撮影と画像処理にけっこう時間がかかりました・・・。

弦の長さがちょっとだけ変わっているのが分かります。

指が移動することで、コマからの弦の長さがわずかに変わります(写真左→右)。それで音高が変わるのです。そのあと、元に戻します(写真右→左)。すると、波形の波形ができます。これが揉弦です。

で、実際の動きの分析に入る前に、ちょっと知っておくといい知識が3点あります。

1)指は弦に斜めに接している

上はいぜんのブログ記事のために撮影した写真ですが、この写真から弦に対して指が斜めに接していることが分かるでしょうか?

これも、そのことが分かりやすいように、ちょっと写真を加工してみます。

指に弦が斜めに接している、というのは揉弦する以前の、二胡を弾く上での大前提ですが、さらに揉弦の動作をするときに、この知識が大いに役に立ちます。

2)指の形が変わっている

分かりやすいように、上の写真に、赤線で指先の関節の曲り具合を明示しました。

もし、指の形をそのままにしたら、それは「滑揉」という別の種類のビブラートになります。

「滑揉」は「滑揉」で、それは一つの技法にはなるのですが、もし、一般的な揉弦である「滚揉(gǔnróu)」をマスターするならば、指に力が入っていたらここが曲がりませんから、ちょっとやりにくいですよね。

だから、指をつっぱらせないよう、うまく「曲がる」ために余計な力を入れないようにしますが、ただ、「曲がる」のであって、「曲げる」のではないことがポイントの一つです。このことについては、具体的な動きの分析とともに、次のブログで触れたいと思います。

3)実は圧も(ちょっとは)変わっている

二胡の弦はバイオリンと違って指板がないので、弦は空中に浮いています。ただ載せているだけ(ふつうにひいているとき)だったらそんなに影響はないのですが、「揉弦」の動作をすると、弦の張りが多かれ少なかれ影響します。

とくに、二胡の千斤のところより、コマに接しているところが琴棹との距離が大きいので、弦は上が狭く、高音になるにつれ、空間的には下を押さえることになるので、ふつうに揉弦すると、写真の左側のときに、わずかに弦が押さえられることになります。

それを積極的に使って、揉弦の波の高さをより高く変化させることも可能なのです。

以上、二胡の一般的な揉弦(滚揉(gǔnróu))のための必要最小限のことは、「音の高さを変える=弦の長さを変える」ことにあること、それを押さえたうえで、既存のビブラート(滑揉)との違いを述べました。

なぜこうやって長々と、「そもそも」論を持ち出すか、というと、アレクサンダーテクニークでは動作の分析を重視するからです。それをするために、必要最小限、何がどうなればいいのか、ということをまず考えてみるのです。その作業をすることで、本質が見えてきます。

「ビブラートの話-2」へ

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逃げていくねこ。

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