回弓

●「どうやって弓を回すんですか?」

●楽器と心身の準備

●十分な準備と、思い切り!

「どうやって弓を回すんですか?」

「回弓って、どうやって回すんですか?」
大昔にそんな質問をされたことがあります
日本人は中国から輸入した漢字を使っているので、中国語を学ぶのに改めて漢字を覚え直す労力は割と少ないというメリットがあります(日本で使ってない漢字や、省略した漢字=簡体字もあるので、労力ゼロにはならないですが)。しかし、漢字が共通することによるデメリットもあります。

中国語で「回(huí)」は戻る・帰るという意味です。家に戻る(家に帰る)ことを中国語で「回家(huí jiā)」と言います。

つまり「回弓」とは「弓を回す」のではなく、「弓を(もとの位置に)戻す」弓法、もっというなら、「音をできるだけ鳴らさずにもとの位置に戻す」という技法です。

(「回弓」は「倒弓(dàogōng)」ともいいます。『張韶老師の二胡講座』上巻114pの見出しはこちらなので、もしかしたら「倒弓」という名称の方がよく使われるのかもしれませんが・・・。そのほか「送弓」「提弓」などの呼び方があるようです。ちなみに「倒(dào)」は逆さまにする、傾けるという意味があり、お茶を注ぐ動作を「倒茶(dào chá)」といいます。また、「dǎo」と読むと意味が変わります)
バイオリンの場合はとても簡単ですが、二胡ではこの動作は極端に難しくなります。
なぜなら、二胡の弦と弦の間はバイオリンより少し狭く、さらに、その間に弓が挟まっているからです。
二胡の2本の弦のあいだは1㎝もありません。だけど、なぜか換弦(移弦)の時はけっこう広く感じます。そこで時々、目で確認してもらって「こんなに狭いんだな〜」と実感してもらうと、それだけで右手の無駄な力や右腕の無駄な動きが収まっていくときもあります。
一方で、回弓や跳弓、また最後の音をすうっと終わらせたい時などは、弦と弦の間の狭さをイヤでも実感してしまいます。ニンゲンの感覚って不思議ですね・・・

楽器と心身の準備

さて、回弓の際には楽器と心身の状態に注意をむけましょう(回弓にかぎらず、楽器をひくときににはいつもどちらも必要ですね)。
楽器の方ですが、まずコマを見ます。弦の溝(弦槽というそうです)がコマに掘られていますが、これは人が一つ一つシュッシュッとやっているので、ひとつひとつ幅が違います。広すぎると換弦がしんどいですが、狭すぎると回弓の時に音が鳴りやすかったり、また普通に演奏するときもひいていない方の弦が鳴ってしまったりします。
また、コマが斜めになっていたり、弦が弦槽から外れていたりすると、弦の間がより狭まってしまいますので、こちらも点検しましょう。
もう一つ、弓の毛も関係してきます。弓毛が多いと、回弓の時に音が鳴りやすいです。もちろん、回弓のために毛が少ないものを選んだり、毛を抜いたりする必要は毛頭ありませんが(「毛」だけに・・・)、弓毛の多さと弦槽の幅のバランスは見ておく必要があります。
次に、自分の心身の状態を見てみます。
まずは、頭ふんわり自分全体で、椅子に座っています。
頭は脊椎の上で細かく動いて、バランスを取っています(綱渡りをする人がつねに動いているように、頭や身体、つまりヒトは全体的につねに細かく動いています。その動きは目に見えないくらい小さいのですが、しかし動いているのです)。
その脊椎は、座っている状態では椅子の座面で支えられていて、座面と直に接しているのは坐骨です。また、両足も身体を支えています(美術室にあるようなトルソーが、椅子に乗せてある状況を想像してください。両足の支えがないと、なんとも不安定ですよね)。
そして、回弓というのは、後述のように、とてもスピーディな動きをします。
素早く動く腕のために、脊椎の支えはとても重要です。
背中が丸まっていては動きにくいし、逆に、胸を張って腰などに負荷がかかっていたりすると、動きにくくなりますね。
回弓に限らず、楽器を演奏するとき、いや、楽器にかぎらず、あらゆる活動をするときに、動きやすさというのはとても大事になってきます。
そのへんを探究するのが、いま私が学んでいるアレクサンダーテクニークのポイントの1つでもあるのですが。

十分な準備と、思い切り!

楽器と心身の準備をしたら、次は動きの練習をしてみましょう。

上述のとおり、弦と弦の間は1㎝もない、ということは上述しましたをお伝えしましたが、そんな狭いところに弓を通すといっても、むっちゃ慎重にプルプルさせながらゆっくり弓を動かす必要はないんです。

むしろサッと素早くするほうが、うまくいくようです。

例えば、フリーハンドで直線をひくには、慎重にごくごくゆっくりと手を動かすよりも、ある程度しゅっとすばやくやるほうが、まっすぐな線をひきやすいですよね。

また、速く動かすことには、もう一つのメリットがあります。

弦は音の高さによって振動が違います。弦の太さと長さと張り具合が同じ場合、低い音ほどゆっくり大きい振動、高い音ほど速く細かい振動になります(言い方を変えると、ゆっくりと大きい振動だと低い音が、速くて細かい振動だと高い音になります)。

で、回弓のとき、左手は音を鳴らすためには使わないので(別の意味では使用しますが)、結局は開放弦になりますが、開放弦はその弦の中で一番低い音=ゆっくり大きい振動が必要ってことです。だから、サッと動かした方が、もし弓毛が弦に触れて音が出てしまっても、ちゃんとした音が「鳴らない」ので雑音が目立たないのです。

もうひとつ。弓で弦を鳴らすときに、音が一番鳴りやすいのが、琴筒(共鳴胴)に弓を置いた高さです。逆に言うと、弓をそれより少し上にあげた方が(↓は弓が動く軌道を横からみたイメージ図)ちゃんとした音が「鳴らない」のです。

さらにもう1つ、もし可能だったら、ヒマしてる左手にも仕事してもらいます。回弓の瞬間に左手指で弦を軽く覆うようにします(ふつうの按弦のように弦に指を置くのではありません)。すると、弦の振動を抑えて、雑音が鳴りにくくなります。

まとめると、
  1. 弓を思い切って素早く動かす
  2. 弓が普段ひく時より少し上を通るようにする
  3. 左手で軽く弦を覆う
てなところでしょうか。
そういえば、台湾の子ども用の二胡教材で、初級第一章の一曲目、つまり、二胡を初めてひくひとが最初に目にする練習曲で、のっけから回弓の練習が取り上げられていて、びっくりしたことがあります(↓)。
画像
子どもが初めて二胡を触る時から、早めに弦と弦との距離感を身につけてほしいという方針なのでしょうか。とても興味深いなあと思いました。

※上記の記事は、と4月2日のつぶやきを再編集したものです。

https://x.com/erhumao/status/1641957312058507264

https://x.com/erhumao/status/1642332619781320706?s=20

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