コンンテンツ
●後ろまで聞こえる?
●招待(invite)する
●音は「届ける」もの?
後ろまで聞こえる?
ウン年ぶりにホームで演奏した数日後、わたしはOPAL(Osaka Practical Awareness Lab)でこの経験をゆかさんや他の方々にシェアしてみました。
本番までのいろいろな過程で思ったこと、定めた目標、その結果できたこと(この「できたこと」にも注目できるようになったのは、ここ数年の私の大きな進歩でした)などを、かいつまんで話したあと、今回感じた問題点を相談しました。
それは、前回のブログの最後にお伝えした
「後ろの方まで届けよう」という気持ちが強いあまり、音が裏返ったり、音程がズレたりした
ということです。
もう少し詳しく説明すると、とりあえず、本番前に職員の方に後ろに立ってもらって、マイクなしでも大丈夫だと確認はしました。
さらに、人が入ってくると、聞こえも変わってくるかなと思い、本番の時でも、1曲目をひいたあと、いちばん後ろに座っていた方々に「音、きこえますか~」と呼びかけてみて、ちゃんと反応がありました(これには、聞こえているかどうかの確認のほか、後方に座っている方々へのコミュニケーションという意味合いもありました)。
ということで、音は会場のすみっこまで十分聴こえていたように感じましたし、できるだけ生音を聞いてもらいたいという思いもあったので、マイクを使わずに演奏したのです。
しかし、確認したにもかかわらず、演奏しているうちに、一番遠くの方に「届けよう」という意識が強すぎて、つい頑張ってしまい、その結果、運弓が乱暴になって音が裏返ったり、力が入りすぎてギギっと鳴ったりしてしまいました。
招待(invite)する
ではどうすればよかったのでしょうか。ゆかさんだけでなく、一緒に学ぶ方々も含め、みんなで考えてくれたり、お客さん役になって演奏を聴いてくれたりしてくださいました。
みなさんの意見は、「自分」「お客さん」の意識が強すぎて、肝心の「楽器(二胡)」がおいてけぼりになっているのでは、ということでした。
お客さん優先だと、楽器に無理をさせてしまう。
しかし、自分と楽器だけだと、お客さんを無視してしまう。
「自分」「楽器」「お客さん」の中で一番の優先事項は、「自分」と「楽器」の間に音楽を作り出すこと。
そして、私と楽器とで作った「音楽」という場に、お客さんを「招待」すること。
ここで、むかしキャシー・マデンさんに学んだ「招待(invite)」が出てきました。
「招待」って不思議な言い方だと思いますか?
「聴かせる」は、お客さんの意思が尊重されないような気がします。
でも、「聴いてもらう」という相手の行為は、自分でコントロールすることはできません。
だから、「招待する」のです。「いかがですか?」というお誘いですので、それを受けるかどうかは相手次第です。自分の意思も、相手の意思も尊重されます。
「ちょっと招待を受けてみようかな」と興味を持ってお誘いに乗ってもらうために、自分が作り出す音楽の場、音楽の世界を、どう表現するかを考えるのです。
自分と楽器が作り出す音楽を、その場にいる方々と共有するための素敵な言葉。
それが「招待する」なんだなあと。
この言葉をキャシーさんに学んだのは、コロナ前の、もう何年も前のことでした。
当時はいまいちよく分からなかったことが、この経験を通じて、実感となってストンと腑に落ちたのでした。
同じことでも、異なる角度や、より深い部分で「分かった」って思うことがあって、その過程を繰り返すことで、少しずつ自分のものになっていくのかもしれないなあと思いました。
音は「届ける」もの?
後日、グループレッスンの際に、ホームでひいた曲をもう一度皆さんの前でひいて、演奏を聞き比べていただきました。
まずは、あの時の会場の広さを思い出して、遠くまで聞こえるようにかなり頑張って演奏しました。いつもより弓幅をつかって、大きく弓を動かします。
普段より大きい音は出るものの、ちょっと出だしがギギっていったり、弓速に弓圧が追いつかずに音が裏返ったりしました。
次に、音は遠くに飛ばすことはちょっと横に置いといて、「私と二胡との関係性」重視で演奏してみます。音の出だしや強弱をより丁寧に、聴かせることを考えて演奏します。
そのせいで、小さいところはかなり小さくなりました。ただ、確かに一回目よりも音量が下がった部分が多かったけど、その結果、より強弱の差ができて、変化に富んだ演奏になったというフィードバッグをいただいたのです。
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そして現在。
私は、キャシーさんの本の日本語版『アレクサンダー・テクニークを教える』を手に入れて、少しずつ読んでいるところですが(市販はされていません)、そのものズバリ、「自分全体での招待」という名前の章がありました。
キャシーさんはもともと演劇畑の方でした。で、俳優さんを教えているときに、彼らが、相手に向かって声を「ランディング」させようとすると、自分全体を固めてしまうことに気づきます。
ランディング(landing)は飛行機などの「着地」という意味です。
飛行機が空港を離陸するように自分が声を放ち、それが目的地の空港、つまり相手のところに着地する感じでしょうか?
これって、ちょっと「声を届ける」というイメージと似ていませんか?
しかし、キャシーはふと思います。音は振動です。それを、ボールのように1つの方向に「放つ」ことはできません(実行不可能なことをしようとすると、身体は何をすればよいか分からず、固まってしまいます)。
では、実際に起こっていることはなんでしょう?音は振動で、波のように周囲に広がっていきます。そこで、自分が作りだす振動の場に、相手を含める意図を持つことが大事ではないかと思い、実際にそのようにしてもらうと、うまくいきました。
ここで、自分が作っている音に、ただ聴き手を「招待する」というアイディアが生まれたのです。(『アレクサンダー・テクニークを教える』44-45pより)
私たちがやることは、自分が作り出す音の世界を明確にすること(音楽の場合、これは楽器との共同作業になります)で、そのうえで、聴き手をその世界に招待すること、なのです。
この本はとても素晴らしい本なので、そのうち市販されないかなあと思うのですが、ちゃんと最後までじっくり読んで、繰り返し読んで、少しずつ消化していきたいと思っています。
※上記の記事は、2024年11月2日と2024年11月10日の旧ツイッターのつぶやきを再編集したものです。