●役者って大変だ
●ATと通じること
●マイナスをプラスに、プラスをマイナスに
●二段階(三段階)思考
●学んだことを日常に使ってみる
●音楽にも使ってみる
「緊張をとる&集中力のひみつ」ワークショップに参加して-1へ戻る
役者って大変だ・・・
今回のワークショップは思いのほか楽しかった。
始める直前まで、あんなに気が重かったのに。いや、それが却ってよかったのか。
これは、映画を見るとき、最初から「面白くない」と期待せずに見ると結構面白いというエピソードを彷彿とさせる(上巻120p、185p、227-228p)。
私は人見知り力を発揮して、知らず知らずのうちにハードルを下げていたようだ。
しかしまあ、参加してみてまず思ったのは、「役者さんってなんて大変な職業なんだ」ってことだ。
私なんか2時−5時の2日間のワークショップでクッタクタだった。
先生は4時間のうちに何度も休憩を取ってくださったけど、もう汗びっしょりで、タオルハンカチで拭いて、水分補給して・・・。
でも、役者さんは、これを一日中、毎日やっているんだと思うと、ほんと信じられない。
それに、彼らは「感情を扱う」職業。エクササイズの中にはなかなか人前でやると恥ずかしいことが多い。でも恥ずかしいなんて言ってられない。何もかもさらけ出さなければならない。感情を扱う役者という職業はなんて過酷なんだろうと思う。
そして、感情を身体で表現するために求められる身体能力のレベルが、極めて高いのではないだろうか。
身体能力というのは、スポーツ万能という意味ではない。私が思い出すのは、例えばほんとうに「のだめ」がコンクールでピアノを弾いているかのような上野樹里の動き。
よく、撮影までの短い期間に、歌や楽器や踊りやスポーツなど、ふつうなら何十年もかけて体得するような特殊な「動き」を、役者は実現してしまう。
たとえそれが嘘の動きでも、あたかもそれに熟達したかのように。
彼らはこの身ひとつで「感情」と「動き」を表現するプロなんだと思う。
しかも底知れない体力をも兼ね備えている。
そして、そんなすごい存在をしてどうやって養成していくかということについても、さまざまな考察がなされていったらしい。
この本にも、「スタニスラフスキー・システム」と「メソッド演技」という二つの練習方法が紹介されている(上巻29-32p)、それを各所で引用しながら、おそらく伊藤さん独自の観点や方法をたくさん付け加えているのだろう。たくさんの示唆に富む記載があって、本はいつのまにかあちこちが付箋で埋め尽くされた。
そのなかで、いくつかの点について、考察してみようと思う。
ATと通じること
この本の中には、いま学んでいるアレクサンダー・テクニークとの共通点がたくさん見られる。
例えば「心は操作できない、誘導ならできる」というのは、「スタニスラフスキー・システム」の考え方だそうだ。これは、ある意味、身体の動きは「間接的」にコントロールするというアレクサンダー氏の発見と共通している。
もう一つ、「ハードルを下げる」ということ。正確に言うと、「ハードルをさげる」+「合格ラインを下げる」(大きな目標をもたない)との表現があった。「100%」を目指さない、というのもあったな。
これはBODYCHANCEの先生方もおっしゃっていた「ベビーステップ」と通じるモノがある。
これら「100%めざさない」「面白がる」「否定しない(受け入れる)」という本書に散見される発想は、先生いわく、脳に負担をかけないため。それでこそ、自由な発想ができるのである。
で、アレクサンダー・テクニークは身体を固めず、自由に動けることを目標にする。しかも、心身同一というのがアレクサンダーの考え方だ。自由に動けるというのは、身体の動きだけでなく、心の動きも意味する。
伊藤先生もアレクサンダーも、目的は違うけど「自由さ」を優先している。
自由ということは、選択肢があるということだ。
おそらく、すぐれた思想やすぐれたメソッドって、その根底になにか通じるモノがあるような気がする。だからこそ、アレクサンダー・テクニークと似ているなあと感じるのも当然なのかもしれない。
マイナスをプラスに、プラスがマイナスに
一方で、この本から独自に得られた知見もたくさんある。
一番新鮮だったのは、「ネガティブ」だろうが「悲観的」だろうが、「失敗イメージ」(上巻218p)だろうが、そういう、ふつうは避けるべき、とされることすらも利用するという発想だった。
特にアレクサンダーを学び始めると、「ネガティブ」「悲観的」な思考や「失敗イメージ」は身体を固めてしまうという発想から、その扱いにはとても慎重になる。いや、アレクサンダーをやっていなくても、「ポジティブ」「楽観的」「成功イメージ」の方がいいような気がする。
しかし、本書は「ネガティブ」も「悲観的」も利用する。
ただし、無条件で利用するのではない。
利用するかしないか、その判断の基準となるのは、「お得かどうか」だ。
マイナス感情ですら、「お得」であれば徹底的に使い倒す!
そこにはウエットな感情論・道徳論は何も無い。
気持ちいいくらいの潔ぎよさだ!
私にとって、慎重に遠ざけていたものたちだって、使いようでは役立つんだという事実が示されると、自分の「ネガティブさ」「悲観的」、つい浮かんでくる「失敗イメージ」すら、まるごとすべてを含めて、肯定できるようになる。
このことは、なかなか自分を好きになれない私にとって、革命的な考えだった。
あとは、この本で使い方を学ぶだけ、なんだけど、それにはもう少し時間が必要かな・・・。
(ほかにも「ズル」「鈍感」「アホ」についての考察も面白いです。)
「マイナスのものでも使える」という発想の裏には、もちろんその逆もある。
一般的には良きモノとされている「ポジティブ」「素直」についても、実はマイナス面があるということを本書はユーモアを持って列挙していく。
例えば、「ポジティブの人って頑張りすぎるから、完璧主義になりやすい」というママの言葉(上巻p240)。また、「こわっ、三流ポジティブが伸びない恐怖のスパイラル」、「こわっ、三流素直が伸びない恐怖のスパイラル」という恐るべき図もある(下巻64、117p)。
もっとポジティブに・素直になりたい、ならなければと思ってる(こ私だ)人々には、ぜひ本書を読んでもらいたい。思い当たることがいろいろある、かもしれない。
二段階(三段階)思考
もう一つ役に立つのは「二段階思考」の考え方。
二段階思考とは、最初から最後まで固定した一貫的なやり方をするのではなく、段階によってやり方を変えること。
例えば、セリフの読み合わせは、最初は棒読みで行なうという。なぜなら、まだ台本の理解が不十分な段階で、過剰に感情を入れて読み込んでしまうと、実は解釈が違っていたり、感情がついてこずにむりに絞り出すということになりかねない。しかし、ずっと棒読みのママではなく、そこからいくつかの段階を経ていく(上巻251-253p)。
この場合は、「スタートかゴールか」の二段思考になる。
また、最初は「量より質」重視で、そのあとは「質より質」というのも二段階思考だ(上巻156-158p)。最初はちゃんとしようと身構えず、ハードル低く、とにかく数をこなす。そして仕上げるときはゆっくり正確に。これは具体的な曲練習になると譜読みはゆっっくり、とちょっと違うことになるが、ざっくりと俯瞰していくと、使えそうなメソッドだ。
二段階思考の「スタートかゴールか」以外の判断基準としては、「大きいか小さいか」「反対のもの」「操作できるか外堀から埋めるか」「外堀も埋められない場合」「歯車の大小」などさまざまなケースがある(上巻261、262p)。
さらにかみ砕くと、その次には「三段階」思考に行き着く。
例えば「楽観的に構想→悲観的に計画→楽観的に実行」(これは京セラ稲盛さんの言らしい)などがそうだ(二段階思考と三段階思考についての比較は上巻267pにまとめてある)。
分けるのは段階だけではない。緊張にも「瞬間的緊張」と「慢性的緊張」の別があり(上巻63p)、ポジティブにも「一流」と「三流」の別がある(下巻53p)。ほか、目的や段階別にさまざまな分類があり、本書2冊の中にはそれを図式化したものがあちこちに見られる。時にはときには見開き1頁にまたがるものさえ、いくつもある。
これらの図と、自分の目的・段階とを照らし合わせ、実際に使っていくのはとても複雑な作業だ。
でも、最初に述べたように、この本はお芝居のようになっている。
バーだったり、病院だったり、監獄だったり、公園だったり。そのシーンで起こったことや、ストーリーの展開などで、どこにどんな考えが述べられているか、どんなエクササイズが教えられたか、などを思い出しやすいようになっているのだ。
この仕掛けはとてもすごいことだ。
だから、複雑でも面白いのである。
学んだことを日常に使ってみる
で、せっかく本を読み、ワークショップを受けたのだから、ぜひ実践していきたい。
上記のように、ほんとうに内容は盛りだくさんだけど、最初はハードルを下げる。
できるところからじわっとやっていこう。
まずは日常生活において。
●初日に学んだ「ジブリッシュ」。これは漫画版を立ち読みした後からやっていた。
ながら練習できる。なんとなく楽しくなる。本にはさらに「理性を緩めて、緊張をとり、脳や心を解放させて、練習を効果的にする」と書いてあった。
また、アレクサンダー・テクニークの基本である「頭ー脊椎」の関係。私はそのことをすぐ忘れ、「習慣」によって動いてしまう。
もちろん、BODYCHANCEの先生方も、忘れたことで自分を責め、心と体を固めてしまうことを推奨していない。「思い出したら”しめしめ”って思ったらいいよ」ってことを教えてくださったけど、私はどうしても自分を責めてしまう。
そこで、思い出したときに「忘れちゃった!」と声を出して、笑ってみた。そのあと、いろんなパターンで「忘れちゃった!」を言ってみる。すると楽しくなる。自己批判が起きない。これは使えそう。
●フローティング
また、かがむ姿勢をする際に頭脊椎を「思い出した」時は、余裕があればやり直していたが、時々はフローティングで背中がプカーと浮かぶイメージで腰の圧力をゆるめるというバリエーションも加えた。
そう、選択肢は多い方が楽しい。
●さらに、参加前から恐れていた「クロス鏡」。
やってみたら楽しかったけど、やはりこっちを向いたヒトと同じ動きをするのが非常に困難だ。
というのも、私は昔から右左の判別が不得意で、ラジオ体操をやるときは正面に立つ先生に後ろを向いてもらいたいと切に思うタイプだった。テレビに映る野球選手も、実際に構えてみないと、ぱっと見て右打者か左打者か分からない。
そのことを伊藤先生に質問すると、「それはホンマにやばい」的なご回答だった。
改めて本を見直してみると、このワークは意識の使い分けを目的とするものだからだ。
登場人物の誠はこのように言っている。
ネガ子「確かに私はマルチタスクが苦手。だからミスが多かったんだ…」(下巻200p)。
ああ、なんか分かる気がする。
この部分では一人で出来る練習法として、「ニッコリして、同時に火事を何個もやりながら考えごとをして、わざとマルチタスクする」というのを紹介していた。
私もなにかやってみようと思い、ときどき「路上クロス鏡」をやって遊んでいる。正面から歩いてすれ違うヒトの動作を、こっそり「クロス」で次々とまねていくのだ。左手でケータイを耳に当ててるヒト、右に買い物袋を下げているヒト、何も持ってないのに片手だけぶんぶん振り回しているヒト・・・
ヒトはけっこうまねられていることに気づかないようだ。
***
あと、ちょっとした気づきだけど、9月半ばから咳に悩まされていて、このときかなり悪化していて咳止めで抑えていた(このワークショップのために通院を決意したというのもある)。
ただ、独り言ワークなどの比較的集中するもののときはほとんど咳が出ず、一方、連動のリラクゼーションの時は咳が出まくっていた。
お医者さんに話すと笑われてしまったんだけど、これってなんなんだろう?
咳が身体の反応なら、精神状態にかかわらず出るときは出るはずなのに。不思議なことだ。
音楽にも使ってみる
前にもいくつか音楽に絡めて書いたが、そのほかのことについて音楽に使えそうなことを列挙してみよう。
●まずはワークショップでやった「細分化」。
これは普段のレッスンでもやっているが、きょう(2018/11/10)、より自覚的に使ってみた。数小節単位から数拍、あるいは一拍の中で、やるべきことを細分化し、要素に分解していく。
例えば、右手、弓幅、弓位、換弓、換弦、左手、どの指、ポジション移動、指距等々・・・。
例えば、ビブラートならかけるかかけないか、どの種類のビブラートか、ビブラートの幅と速さは、音のどこからかけるか等々・・・。
例えば、滑音なら音の前か後ろか、上か下か、滑音の量、滑音の速さ等々・・・
●ハードルを下げる+二段階で最初に台本を棒読みから始める。
これは譜読みにも応用が利きそうだ。つい、感情とか音の解釈とかそちらを優先してしまうが、時と場合によっては、むっちゃハードルを下げ、全部分弓で、ゆっくりと、棒弾きするという選択肢を持っておいてもいいのかも。
●いろんな言い方・笑い方。
これは改めて子どもの生徒さんを見直す契機となった。ほんとうに発想が自由だから。彼女を自分に乗り移らせて、今度ひく曲にちょっとアレンジを加えるのに使ってみた。ああやこうやとずっと迷っていたのだが、「楽しむ」ことを忘れていた。だから自由さが無くなってたんだな。いろいろ遊んでみたら、アイディアがいろいろ浮かんできた。
●そして、本番に向けてのこと。
これまで何度もでてきた「ハードルを下げる」「合格ラインを下げる」「100%をめざさない」。
ほんで、実際に目標(合格ライン)を定める時には、私がBODYCHANCEで学んできたことが役に立つ。例えば、「間違えない」「緊張しない」とか、音楽的ではないことや、実行不可能なもの、否定形のものはとらない、ということだ。このことについては、もしかしたら前にブログに書いたことがあるし、これからも書いていくつもりだけど。
●感情の作り方
「自分スタートで根っこがあると感情も想像も本物なんだ」(下巻122p)という誠の言葉だ。上巻においては「アトモスフィア」という形でも紹介されていた(203-207p)。
例えば中国音楽もそうだけど、時代や国が違ってて、背景や状況がなかなか理解できない場合ってよくあると思う。
でも、その際にどう感情を作るか、はこのへんの方法論が参考になるかも。ただ、ワークショップではやらなかったので、これから模索してみようと思う。
●最後に、先生から次にやる曲を指定される形のレッスンを受けている人で、いまの課題曲に興味を持てない人は、「やらされているからやりたいに変える」「面白みを見つける工夫をする」(下巻160-161p)を読むことをお勧めします。
けっきょく、緊張・集中力って・・・
ここまで読んだ方には、
「緊張をとる」「集中力のひみつ」ワークショップの報告なのに、ぜんぜん緊張の取り方とか集中力のつけかたの話が無いやん!!
と大声で叫んだ方が(もしかしたら)いらっしゃるかもしれない。
でも、これらに挙げた方法のほぼ99%(個人の感想です)が、緊張の緩和+集中力の両者へと関連してくるのだ。
それについては、本を読んでもらうしかない。だって、この本は「緊張をとる」「集中力のひみつ」という題名で売ってるんですもん。だから、この本にいちいち、どうしてそうすることが緊張緩和&集中力養成につながるのか、ということが解説してある。
というか、ワークショップも本も、あまりにも紹介したいことが多すぎて、そろそろ「このままでは永遠にブログを書き終えることができない」という恐怖感に襲われてきている。
すでに書き始めから10日以上たっている。
時間がたてばたつほど、ワークショップで感じたこと・考えたことがどんどん薄れていく。
しかも、ほかにたくさんやるべきことがあるので(ブックコース締め切りまであと10時間!、途中で仕事にも行くし)、もうこれが限界です。
しかもたった3時間×2日間のワークショップで全貌が分かるわけないじゃん!
下巻174-179pには見開きの字が小さすぎる内容の濃いごっつい表が3つもあるんよ!
逆ギレ気味だが、この本を消化するには長い時間がかかるということだ。
これからも、何度も読み直し、使えるところから使っていきたい。
2冊とも買って損はないですよ!
***
二日目の朝、ワークショップ前に病院行く時見送ってくれた焼肉屋のみーこ
(写真は加工しています)
今回はねこ要素が薄かった。