●弓圧と弓速との関係
●弓幅の変化
●弓の傾き
●補足+身体の使い方
●そもそもなぜ強弱を・・・
強弱の変化をつけるには、2通りの方法があります。
それは、一弓ごとに変化させるものと、一弓の中で変化させるものです。
『張韶老師の二胡講座』では後者のことを「渐弓(jiàngōng)」といっており、同書の下巻では、58pに「70 渐弓与倒弓练习」という練習曲が載っています。
また、この曲につけた訳注(59p)で、渐弓(jiàngōng)についての簡単な解説を載せました。
(渐は「だんだん」という意味で、渐强(だんだん強く)渐慢(だんだん遅く)などの用法があります)。
最近、ツイッターで強弱についての質問を受けたので、現時点での私の知識をここにまとめておきたいと思います。
●弓速と弓圧の関係
まず頭に入れておきたいのは、弓の圧と弓の速さとの関係です。
『張韶老師の二胡講座:上巻』85pに、私が作った図を載せています。
(原著にはありませんでしたが、分かりやすくするために加えました)。
この図を言葉で表現すると、弓速と弓圧(こういう弓にかかる力加減)とは比例するということです。
弓速は運弓の速さのこと。弓にかける圧力は、手の重みをどのくらい弓にかけるか、ということです。
(本では、後者を「弦にかかる力」と表現していますが、弓のほうがよかったかなと思い、改訂版では直しました)
弓速を遅く、弓圧を弱くすれば、弱い音になります。
弓速を速く、弓圧を強くすれば、強い音になります。
もしこのバランスが崩れた場合、雑音になります。
弓速が遅いのに弓圧が強すぎたら、ギーギー、ギコギコという雑音になります。
弓速が速いのに弓圧が弱すぎたら、音がひっくり返ったり音がちゃんと鳴らずにシュルシュルいう雑音になります。
注意すべきは、これはあくまで任意の一音に対しての比例関係です。音の高さがかわると、また話が変わりますので、これは項を改めて述べたいと思います。
●弓幅の変化
弓速の変化は、弓幅(弓がどのくらいの距離を進むか)の変化となって現れます。
弓速が速くなるほど、つかう弓幅は多くなります。
ということは、強い音を出したいほど、弓幅が必要になります。
たとえば、1 1 1 1 ・・・ と四分音符を分弓でひくとしましょう。
もし強弱をつけないなら、弓の軌跡は以下のようになります。
これに対し、四分音符ごとに大きくするのだったら、弓の軌跡は下のようになります。
つまり、同じ長さの音をひくとき、強弱をつけないならば弓の長さは変わりませんが、強弱を付けるなら、だんだん長くなるのです。
もちろん、長くなるに従って、弓圧も大きくなります。
この前提のもと、もし一弓の中で強弱をつけたいならどうなるでしょうか。
例えば推弓(おしゆみ)の場合、4拍を伸ばすとして、強弱をつけないならば1拍目から4拍目はすべて同じ長さになります。
で、クレシェンドかけるばあいですが、多くの人のイメージは以下のようなものでないでしょうか。
1拍ずつ4つの音を分弓でひくときは、少しずつ長くする。だから、4拍伸ばすなら、同じ感じで少しずつグラデーションで長く(弓圧は強く)していく感じでしょうか。
ただ、このようにすると、だいたい最後には弓が足りなくなり、あまりクレッシェンド感はでません。
ではどうするのでしょうか。
まずは、そもそも「強くなった」ことを表現するには、変化の差があればあるほど分かりやすいので、まずは最初をぐっと弱くすること、そして、変化を極端にすること、です。
この2つを実現するために、自分がイメージしているのは、こんな弓運びです。
最初の3拍はがまんして弓の3分の1から4分の1くらいに押さえておきます。
ただし、音の頭から小さすぎると振動が起こらず音の始まりが分からないので、ほんのちょっとだけ「コン」と勢いをつけます。重い台車を押すとき、はじめに少しだけ力をかける感じです。あまりやりすぎるとアクセントになるので、ちょっとだけ、です。
そして1、2、3の間はあまり進まず(弓圧も弱く)そして4拍目にぐっとアクセルを入れて、その勢いで残りを一気にひききるんです(もちろん、それに従って弓圧もかける)。こうすると、クレッシェンドかけた感がでるのではないでしょうか。
●弓の傾き
さて、なぜ長弓のクレッシェンドを、「推弓」(おしゆみ)の場合で説明したか、です。
長弓のばあい、拉弓(ひきゆみ)始まりより推弓(おしゆみ)始まりのほうがクレッシェンドをかけやすいからです。
理由は2つあります。
1つめは、擦弦点(弓毛と弦との接点)との距離です。実際に弓に圧をかけるのは手(指)が弓を持っているところです。そこと擦弦点が離れているほど、弓に圧が伝わりにくく、さらに、弓竿の重さもほとんどかかっていないので、弱い音がだしやすいです。推弓はそこから始まって、次第に強い音が出しやすい擦弦点近くへと向かっていくので、クレッシェンドに向いているのです。
2つめは、弓の傾きです。弓毛と弦の角度は90度が一番鳴りがいいです。
しかし、楽器は地面と垂直線上に構えているわけではなく、少し傾いています。
(『張韶老師の二胡講座:上巻』84頁訳注にも図を載せてます。原著の図は原著者の張韶先生がモデルになっている写真でしたが、写真の状態が悪く、加工するのが大変なので、新たに取り直した写真を載せました。モデルは監訳の杉原先生です。)
なぜ傾けるかというと、楽器の重心が皮よりにあるので、弓竿を垂直に構えるとそちらの方に倒れてしまうからです。
↑の写真は二胡の胴部分ですが、二胡の底の部分(琴托)が丸みを帯びていますよね(そうなってないものもありますが)。ここに、人間の腿のカーブが来るようになってます。
腿は円筒形です。その丸みを帯びた部分に二胡を置き、垂直に立てると、琴筒の向かって右に琴竿が指してありますから、当然重心偏り、右手の方向に倒れてしまいます。
だから、ギターの楽器立てのように、少し左に傾けてもたれかけさせると、より安定します。二胡は換把(ポジション移動)があるので、なおさら安定感があるほうがよいですよね。
二胡が傾いているということは、とうぜん弓竿も、それにだいたい平行な(完全に並行ではありませんが)弦も傾いています。
その弦に90度に弓を当てるのならば、二胡の運弓の方向は下図の左のようではなく、右のようになります。
この状態で推弓始まりで運弓すると、弓は坂道を滑り落ちるように斜め下に動かすことになります。ということは、勢いがつけやすいということなんです。
なので、まずは推弓始まりの長弓のクレッシェンドを入り口に、テンポや長さをかえたり、拉弓でも試してみたりしてださいね。
補足+身体の使い方
ほんで、補足を2つ。
1)以上はすべて弓によるクレッシェンドです。で、実際に使う時は、必要に応じてそれにビブラートの変化をプラスすると、より強弱の変化が明確になるでしょう。
(もちろん、曲想によっては、ビブラートを入れず、弓だけの変化で表現することがよい場合もあるでしょう)
2)実際に曲の中でそのような弓づかいを実現するためには、このクレッシェンドをこれからかけるというスタート時点で、すでに弓が端っこにいることが必要です。だから、そこまでいく間に、いかに端っこに寄せておくことががポイントになってきます。
つまり、クレシェンドに至るまでの弓の配分をどうするか、いろいろ試行錯誤しながら考えてみましょう。
次に身体の使い方について注意点1つ。
アレクサンダーテクニークを学びはじめて気づいたことなのですが、推弓+長弓のときに、私を含めた多くの人々が、同じような特徴的な身体の使い方をしがちなんです。
これは、強弱を付けるつけないとは関係なく、なぜか推弓の長弓になると、擦弦点に近づくにつれて、だんだん腰をかがめ、身を縮めるようにしてしまうのです。
なんででしょうね。私も、油断するとうっかりやってしまいます・・・。
で、もし生徒さんがこういう状態になったら、ちょっとやってもらうことがあります。
手を弓から離して、ご自分のおなかのあたりをさわってもらうのです。
だいたい「?」という顔をされますが、気づいてもらいたいのは、手を擦弦点に近づけていくとき、別に身を縮める必要がないということですよ~!
脊椎はのびのびとしたまま、ただ弓を持つ手が身体に近づいていくだけ。
そういうふうに、シンプルにイメージしてみたらいいかもしれませんね。
●そもそもなぜ強弱を・・・
最後に、一番強調したいことを。
上記のことはすべて「テクニック」の範疇のことです。
で、テクニックとはあくまでも表現のためにあるもの。
そもそもなぜ強弱をつけてひきたいのか、というところに立ち返ってみてください。
「演奏が平坦にならないように」でしょうか?
「変化をつけるために」でしょうか?
でも、強弱の変化=音楽・表現ではないような気がします。
なぜ、音が強くなっていくのか(あるいは弱くなっていくのか)。それには、きっといろいろな理由があるでしょう。
だんだん喜びが高まってきたから? だんだん怒りが募ってきたから? 何かがだんだん近づいてきたから? いろんな場面が想像できるでしょう。
それを音で表現するために、クレシェンドをかけたいんです。
もし、譜面にクレシェンドの記号があったとしても、それをそのまま練習するまえに、「なぜここでだんだん大きくしたいんだろう」と立ち止まって考えてみて下さい。
そうすることで、音楽がもっと楽しめるんではないでしょうか。
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微妙な距離感
手前のねこが寄ってきた!
ぷるぷるする
その間に奥のねこはどっかいっちゃった。さみしい・・・
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