《コンテンツ》
●椅子と二胡
●低けりゃ良いってもんじゃない
●椅子を合わせるか、自分を合わせるか
椅子と二胡
二胡は、基本的に座って演奏します。
最近は立奏も流行っていますし、結婚式の嫁入り行列?などで街をねり歩くとき(まさに「行街」ですね)に楽隊の一員として二胡が加わるときには、もちろん↓の動画のように歩きながら演奏します。
すごい昔だと思ったら、1997年だからそんなに前じゃないですね・・・いや、20年以上前だから、十分「昔」ですね・・・時が流れるのは早いモノです・・・。
話を戻すと、まあそういう場合ではない限り、ふつうは座ってひく以上、椅子ってものすごく演奏に関わってきます。
例えばいつも使ってる区民センターの椅子は、いちどリニューアルされたのですが、肘掛けがなくなって、とても腕が動かしやすくなりました。ついでに、だいぶん軽くなって移動も容易になったと喜んでいたのですが、実際、座ってひいてみると、↓の写真のように座面後方がゆるやかに低くなってて、浅めに座ると椅子の後ろ足が浮いてきて、ちょっとばかしひきにくいことに気づいたのです。
もちろん、しっかり深めに座る分には、身体にフィットしてすごく快適なんだと思いますが・・・。
そういえば、大昔にホテルの中華料理店でBGM的な演奏をしたことがなんどかあったのですが、いくつかのお店では、わざわざすごく立派な木製の肘掛け椅子を用意してくださってたり。しかし、やはり肘掛けがあるとそれが当たってちょっと演奏がしにくく、事情を話して普通のパイプ椅子に変えてもらったことがなんどもあったのです。
また、椅子と言えば、『張韶老師の二胡講座:下巻』の巻末に、杉原圭子先生が書いてくださった張韶先生の追悼文があるのですが、そのなかに、「先生の椅子」という一文がありました。
張韶先生は、演奏の時に愛用していた小さい木の椅子があって、中国広播民族楽団に所属してらっしゃったときは海外遠征にまでお持ちになったというのです。
このエピソードがとても心に残っていて、それは、私も身長が低いため、他の方はなんとも思わない椅子でも、ちょっと高いなあと思うことがあったので、低い椅子がお好きだったという張韶先生になんとなく親しみを感じてしまったからだと思います。
低けりゃ良いってもんじゃない
そんななか、ほんとうにほんとうに久しぶりに人前で演奏する機会があり、仲介をしてくださった音楽事務所の方とのやりとりを重ねていく過程で、演奏するお部屋の感じを事前に写真で見せていただきました。
そこには、皇帝が座ってた豪勢な椅子(復元)に座った二胡の方が写ってて、あくまでも雰囲気ということで、お顔までははっきり写っていませんでしたが、それをみて「うわ」と思ってしまいました(↓は、横からみたところ。ついたての前の黄色い椅子がそれです)
しかし、それは記念写真ということで、実際にその皇帝の椅子に座ってひくわけではなく、現地ではちゃんと演奏用の椅子を用意してくださっていて、ホッとしました。
ただ、やはり背の低い私、その椅子に座ってひくと、ちょっと二胡がすべる感じがしました。まあ、本番では多少かかとのある靴を履くから大丈夫かな、と思いましたが、一抹の不安をかかえたまま演奏に臨むのはどうかなと思って、もう少し低い椅子があるかどうか、係の方に尋ねてみました。
そしたら、それより少しだけ低い椅子を持ってきてくださって、もうそれにしようかと思ったのですが、「いっそ、こんなに低いのもあるんですが」と、とてもカワイイ椅子を示してくださいました。
それが、↓の椅子です。
前に置いている二胡と比べると、それこそ子ども椅子くらいに低く、これがまた抜群に安定感あって、ほんとうに気持ちよくひけました。やっぱり、思い切って別の持ってきてもらってよかった、とホッと思いました。
そして、お昼を食べて、着替えて、リハの時に「やっぱアンコールお願いします」と言われたので慌てて練習して(楽曲数を削りに削ったけど、どうしても演奏時間を5分ほど超えてしまい、演奏の次にある学芸員さんの館内ツアーの時間にめり込んでしまうので、とてもアンコールとかやってる時間は無いと思っていたのに、「少々過ぎてもいいですよ、恒例ですので」とのことで・・・)、そして本番です。
ここに、大きな落とし穴がありました。
「えっ、音が出ない・・・?」
弓がちゃんと内弦に接してなかったのです!!
えっ、なんで、とギョッとしたけど、後の祭り。
私は気づいてなかったのです。本番はジーンズではないということに・・・。
本番で着たのは、太ってしまって手持ちのチャイナドレスが入らなかったので、慌てて入手した私でも入るサイズのチャイナドレスでした。
ゆったりしているとはいえ、腰回りは結構絞ってあって、ジーンズほど股関節まわりの自由が効かないのです。
低い椅子の安定感は、ジーンズを履いてる両脚の稼動性あってのことだったんです。
椅子を合わせるか、自分を合わせるか
昔からずっと、私は二胡がグラグラするのをどうするかという課題を抱えていました。
二胡の琴托の底に滑り止めをくっつけたり、布を置いたり、はたまた、持ち運べる足台を購入したり(今回もいちおう持って行ってました)・・・・
そして、それに関連するブログもいくつか書いてきました。
ただ最近は、ポジション移動の時などに左足の爪先を立てたり、脚の開き具合を微調整したりなど、必要な時に必要なだけ動かすということをやってて(まあそれはそれで、今度は爪先立てるときのユースが課題になってくるが)、昔ほどぐらつきが気にならなくなってきました。
しかし、リハーサルのときにあの低い椅子でひいたときのかつてない安定感と、それと本番のときの足が自由に動かせなくて感じた窮屈感。ほんとうに対照的で、いろんな意味でかけがえのない学びが得られたのです。
まとめると・・・
①私はやっぱ低い椅子が好き。けっこう低くてもイケる!
②けど、衣装によっては、あまり椅子が低すぎると逆に足(股関節)の自由度が制限され、逆に演奏しにくくなる
③②と似たようなことだけど、衣装は上半身、つまり腕がダイナミックに動かせるかどうかばかりが気になってたが、下半身の自由度も大事で、もし腰回りがタイトなものなら、低すぎる椅子よりも、多少高い椅子で、足台や滑り止めを使ったり脚を組んだりした方がマシかもしれない(ただ、足台は持ってきたものの、使うのには慣れていないので、それもたまには練習していたほうがいいかもしれない)
こんな私の失敗談でしたが、少しでも参考になったら幸いです。
なお、この内容をツイートしたとき、何人かの方からコメント(リプ)をいただきましたが、たとえ重たくて大変でも、自分にあった椅子を会場まで持って行くという方もいらっしゃいました。
よりよい演奏のためには苦労をいとわない、本来はこれこそ「有るべき姿」だと思うのです。
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※上記の記事は、下のツイートを再編集したものです。
ここ数日、本番着る服の話をしていたが、服とともに、椅子もすごく演奏に関わってくる。例えばいつも使ってる区民センターの椅子は、リニューアルされたとき肘掛けがなくなってひきやすくなった(ついでに軽くなり移動が容易になった)と喜んでいたのだが(続く)|ウェブベルマークhttps://t.co/6wqvW8AdhC
— 井上幸紀 (@erhumao) May 18, 2023