曲目を決める――観峰館の学び①

《コンテンツ》

●客層のリサーチ
●時間との戦い
●「いつか」の貯金

先日、滋賀の観峰館というところで演奏させていただきました。
依頼を受けてから本番までのいろいろな段階で考えることなどを、メモしていきたいと思います。

たぶん、普段から演奏活動を精力的になさっている方は、この文を読んで「何を当たり前のことを言っているんだ」とか「もっと精密に考えないと・・・」とかいろいろご意見があると存じますが、ここでは、演奏についてはプロとはほど遠い自分が、現段階でやっていることを覚え書きとして書いていこうと思います。

客層のリサーチ

依頼があるときは、「いつ・どこで・どのくらいの時間」という感じのデータがまず来ます。
もし依頼を受けるなら、そこから曲目の選択が始まります。

どの曲を、何曲、どういう順番でひくか、ということです。

そのときに大事なのは、どういう方がどういう状態で聞くのかということです。

家族連れなどお子さんもいらっしゃるなら、アニメの曲や童謡・唱歌などを入れようかと考えます。

通りすがりの方が多いような場所でしたら、歌謡曲など、みなさんが知っている曲を多めに入れます。

ベテランの方が多いのでしたら、演歌なども入れたりします。

料理屋さんの片隅で数十分×数ステージで黙って演奏する感じなら、お料理やおしゃべりのジャマにならないように、静かでゆったりとした曲が多めがよいかなと思ったりします(あまり悲壮な曲はよくないかと)。ただ、ゆったりが続くのもアレなので、たまにテンポよい曲を入れたり、長調短調とか、D調G調とか、拍子とか、いろいろ変化をつけたりします。さらに、日本・中国・西洋、その他の曲など地域性や、民謡、歌謡曲、童謡唱歌、演歌など、曲のジャンルを変えたりしても面白いですよね。また、例えばおしゃれなお店だったら、演歌系は避けて、なるべくピアノ伴奏が多めで・・・なども考えたりします。

一方、もしみなさんがステージに向かって説明も含めて聞いてくださる感じでしたら、1曲目→2曲目→3曲目・・・という順番というか流れにストーリー性があったほうがよいかなと思います。最初はこんな曲で、次は、とか実際に現地で話しながら演奏しているイメージで選曲します。

そんな時は、自分なりに話しやすいテーマを決めたりすると選曲しやすいかもです。秋や春などの季節にちなんだり、同じテーマの日中の曲を集めたり、テレサ・テンが歌ったことのある曲やテレサが生きていた時代の曲を集めたりしたこともあります。

今回の演奏では、お子様はほとんど来ないこと、定期的に開かれているミニコンサートで常連さんが多いらしいこと、そのコンサートでこれまで二胡を含むたくさんの中国楽器を聴いてらっしゃること、観峰館がお習字にちなんだ展示をしており、そのような施設に来られる方だったら習字に興味があって、ならば唐詩や中国文化に特に関心がおありだろうと推測し、日本の曲は1曲で、あとは漢詩にちなむ曲など5つの中国曲をピックアップしました。

全体のコンセプトとしては、40分の授業を組み立てる感じで選曲しました。

というか、演奏だけでしたら、私よりいくらでも優れている方がたくさんいらっしゃいます。ホンモノの二胡の音は、本格的なコンサートなどで聞いていただければいいかと思うのです。

じゃあいまの私に何ができるのか・・・・

私の役割は、二胡の世界にみなさんをいざなうために、入り口にお連れすること、そのように定めました。

ただ音楽を聴いていくだけではなく、その一つ一つの楽曲の裏にある、二胡の歴史やこの楽器の中国民族音楽の中の位置づけなどをお伝えすることで、この楽器への関心や興味をたかめていただけたらいいなあ、と。

ていうか、それが今回の依頼を受けた一番の動機だったのです。

時間との闘い

実は、最初に40分と聞いたときは、けっこう長いなという感じでした。

お料理さんでBGMの感じで生演奏をするなら、私の個人的な感覚では30分前後が多かったからです。

しかし、実際には、あまりにも短すぎました!
最初にひこうと選曲したものは、使用する伴奏音源の長さを足してみると、もうすでに時間を超えていたのです。

そこで、40分というのはけっこう厳密な時間なのか(次に何か予定があったり、会場の都合で何時までとか決まっているとか)、それともちょっと伸びてもいいよ、てな感じなのかを確認しました(この確認ってけっこう大事です!!!)

そしたら、次には学芸員の方のレクチャーが控えているということもあり、休憩&移動があるからあまり伸びてもよくないそうで・・・

そこで、当初の半分くらいに削って、いちど、はじめの挨拶とか曲と曲の間の説明をブツブツ呟きながら時間を計ってみたら、もう1時間超えてました。
まずい・・・まだまだ長い。

んで、最終的に8曲まで絞りましたが、どうしても話したいことが入らないので、泣く泣く2曲削り、最終的に6曲になりました。

1 導入 日本の方にもわりとよく知られている曲

2 漢詩にまつわる曲

3 民謡にまつわる曲

4 5 二人の二胡奏者が同じテーマで作曲してて、けど時間的には80年ほどの隔たりがある2曲の聞き比べ

6 ラスト 少し長めの(といっても6分ほどですが)二胡ソロ曲を「トリ」に置きました。

それぞれ、漢詩の朗読を入れたり、民謡の歌を歌って紹介したり、どうして民謡が使われるようになったのかという背景や、国策映画・劉天華・閔惠芬・上海之春・文革などのキーワードを入れておきました(時間がなかったので詳しい説明はできませんでした)。

それらの内容が、この短い間に、私のつたない説明でどれだけみなさんに伝わったのかは分かりませんが、少人数ながらすごく意欲の高いお客様たちで、うなずきながら熱心にメモを取ったり、パンフレットの説明をなんども見返したりしていらっしゃって、その様子に、「こんな説明とか退屈しはらへんかな」という事前の心配が吹き飛ぶような気がしました。

ほんとうに、お客様に助けられたような気がします。

ただ、時間は少し超えてしまいました・・・・

さらに、当日、「毎回アンコールがあって」という話がでて、そもそも時間が超えてしまいそうなので時間もないだろうとアンコールは用意していなかったのですが、とりあえず無伴奏で短い曲を一曲、演奏いたしました。

アンコールの有無の確認、必須です!!!

「いつか」の貯金

上記の1~6の曲は、これまで何年もかけてひいてきた曲です。2番目や4番目や6番目の曲は、1990年代後期の留学時に初めて習って、それ以来、もう20年以上ずっと練習し続けてきたことになります。

とはいえ、今もまだぜんぜんちゃんとひけていないのですが、それでも、私の中で少しずつ、少しずつですが、自分なりの形になってきたように思います。

他の曲も、いろんなシーンでひいてきました。演奏依頼があまり来なくなってからは、グループレッスンの場を使って人前でひく練習をさせていただきました。

その意味では、観客役になってくださった方々のおかげで、経験を積むことができたと言えます。

また、二胡とは切っても切り離せない民謡をみなさんに紹介するために、趣味の歌のレッスンを2018年からずっと続けてきました。

当初の目的は、はやくアレクサンダーテクニーク講師の資格を取りたくて、学校のほかにもアレクサンダーの先生に個人レッスンを受けるというのでしたが、せっかく個人レッスンを受けるのなら、歌が専門のアレクサンダーの先生に、歌を通じて学ぼうと。

たまにつぶやいていますように、いつも歌うとは限らず、時にはただひたすら立ったり座ったり歩いたりと動き続けることもあれば、1時間ずっと話したりもしてます。

もちろん、歌も歌いました。選ぶ曲はだいたい二胡で演奏する曲のなかで原曲が歌のやつです。たとえば、「ケセラセラ」「アメイジング・グレイス」「雪の降る街を」「愛燦燦」などです。これらは、本格的に歌いたいというより、歌うことを通じて二胡演奏に役立てようという感じでした。あくまでも二胡のためです。

同様に、二胡曲になっている中国の民謡や歌謡曲もいくつか歌いました。先生は別に特定のジャンルの歌の専門家でもなく、中国の民謡に詳しいわけでもないのですが(というか、ほぼご存じなかった)、自分が歌いたい歌を持ってきて、声の出し方の基本をアレクサンダーを使ってやる、といった感じです。特に人前で歌う予定も無く、あくまでもアレクサンダーを使うネタ的な感じだったのです。

(この歌のレッスンについては、また別の機会にちゃんと文章にまとめたいと思っています)

そして、プログラムの3曲目の中国の民謡ですが、2019年ごろから二胡で練習を始め、その年の年末ごろから歌のレッスンの時にもときどきこの民謡を歌うようになりました。やがて、生徒さん達にも紹介したいなあと思い、一番の歌詞を暗記し、二胡と同じキーで歌えるよう、取り組んできました。

そして、過去に、グループレッスンにご参加の方々にこの民謡を聞いてもらう機会が実現しました。

さらに今回、この歌を、民謡と二胡曲のつながりを知っていただくためにぜひ紹介したくて、「別に歌の専門家ではなくてシロウトなのですが」と何度も念押しをして予防線と言い訳だらけではありましたが、人前で、二胡とのコラボで歌うことを実現することができました(最初のメロディだけ歌にして、あとは楽譜通り二胡でひく)。

2019年の年末になんとなくぼんやりと始めたことが、こうやって数年後に形となったのでした。

****

みなさんには、いま特に演奏する予定がなくても、「いつかこんな曲がひきたいなあ」って曲がありますか? もしよかったら、ただプロとかの演奏を動画やCDで聴くだけではなく、実際に譜面を探して入手してみたり、それを見て、ひけそうなところだけ、ゆっくりと・ちょっとだけ実際にひいてみたり、伴奏があるかどうか調べてみたり、その曲を含めて自分がひける曲をいくつか組み合わせてプログラムを作ってみたり、と、具体的に動いてみればどうでしょう?

そんな「いつか」の貯金をたくさん貯めていくことって、きっとワクワクして楽しくなると思うんですよ。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする