強弱をつける-2

●弓圧をどうやってかけるか - 内弦

●弓圧をどうやってかけるか - 外弦

●そもそも難しいことをやっている

●再度、「そもそもなぜ強弱を・・・」

去年秋、ツイッターで強弱についてのおたずねがあったので、「強弱をつける-1」にまとめました。
今回はそのつづきです。

「強弱をつける-1」では、

ある高さの音について、弓の動きの速さと弓にかける力は比例する

ことを述べました。簡単にいうと、

弓を動かす速さ(弓速)が遅い+弓にかける力(弓圧)が小さい→小さい音
弓を動かす速さ(弓速)が速い+弓にかける力(弓圧)が大きい→小さい音

になります。このバランスが崩れて、弓速が遅いのに弓圧が大きすぎる(あるいは、弓圧が小さいのに弓速が遅すぎる)と、ギコギコという雑音がでます。

一方、弓速が速いのに弓圧が小さすぎる(あるいは、弓圧が小さいのに弓速が速すぎる)と、音が裏返ってキーキーいったり、弓をこするシュルシュル音だけが目立ち、ちゃんと「音」にならない状態になります。
(『張韶老師の二胡講座:上巻』85頁下のほうのグラフ参照)。

弓圧をどうやってかけるか ― 内弦

さて、ここからが本題です。
「弓圧」をかける行為は、内外弦ですごく異なってくるのです。

まず内弦の時は、弦圧を伝える主体は右手の中指で、それを薬指が補助します。
2本の指は、じかに弓毛に触れているので、弓毛が弦に接触する感覚がつかみやすいと思います。

このとき、中指を主に使って下さいね。
中指のほうが薬指よりしっかりしているというのもありますが、もっと大きい理由があります。
薬指が主体になると、動きの方向が斜め上になるので、弓毛を持ち上げる方向になります。すると、弓を動かしたとき弦にその動きが効率的に伝わる角度――90度――が保てず、浮きあがってしまうからです。

下の写真の左が中指主体、右が薬指主体です。

弓圧をどうやってかけるか ― 外弦

一方、外弦のときは、「右手親指」を通じて腕の重さを「弓竿」に伝えます。
というのは、外弦を使っている時は、内弦のように弓毛と弦の接触具合を指で直接操作することができないからです。

二胡の弓は、何もしないときには弓棹の重さによって自然に外弦に接触しています(このことは換弦の項目でも触れました)。

この状態で接触具合をより強くするには、弓竿を琴筒にそって沈ませるようにします。
すると、弓毛が弦に押しつけられるように強く接触します。
その結果、弓竿は琴筒を保護する墊片(テンペン。簡体字では垫片。発音はdiànpiàn)に沿って沈んでいきます。↓のgifアニメは弓竿が沈み込んでいる様子です。

指の中で、「弓竿」の上に載っているのは親指だけです。なので、この動きは親指が主体になります。
ただ、ちょっと注意して下さい。

これは、親指でむぎゅ~~と力任せに下向きに押すのではありません。
(親指が単独で出せる力というのは限度がありますし)。
私たちはもっとラクをしましょう。腕の重さを利用するのです。
正確に言うと、腕の重みを、親指を通じて弓竿につたえるのです。

親指にかかっている腕の重みのイメージはこんな感じ。

こんなふうに、左手で弓竿をもち、右手の親指をひっかけて「ぶら~ん」てしてみてください。その状態で左手に感じる重さ=腕の重みだと思えば、実感できるかも。

でも、ただ重みをかけるだけでは、弓竿が際限なく下がっていって、とてもとても演奏できる状態ではありません。そこで、腕を支えるのが、上腕骨とがっちりかみあった前腕の骨――尺骨です。尺骨とは前腕の2本の骨の、小指側の方です。

つまり、

「A:親指を伝わって下向きにかかる力+重力」=「B:小指側の上向きの弓の支え」

という、相反する力が手によって弓にかかっています。

Aの割合をどんどん大きくしていくと、弓竿がどんどん沈んでいき、その結果、外弦に対する弓圧が高まっていきます。

「親指を伝わって下向きにかかる力+重力」>「小指側の上向きの弓の支え」
「親指を伝わって下向きにかかる力+重力」>>「小指側の上向きの弓の支え」
「親指を伝わって下向きにかかる力+重力」>>>「小指側の上向きの弓の支え」

もちろん、それに比例して弓速もかえていく必要があります。
その判断基準は、「音」です。
音を聞くことで、弓圧に対する弓速が適切かどうか判断できます。

(だから、音程が気になるあまり、チューナーをずっと見つめっぱなしでひいていると、つい視覚ばかり使ってしまうので、そういう「音色」に対する情報がなかなか入ってこなくなりがちなんです)。

以上、ここに書いているのは「弓速」「弓圧」の2つの要素のうち、主に「弓圧」に関わることでした。

もう一つの「弓速」については、また長くなるので、他の機会に触れたいと思います。

そもそも難しいことをやっている

まとめると、二胡の内弦と外弦は、まるで同じ楽器ではないくらい、異なる方向へ、異なる働きかけをやっています。

(『張韶老師の二胡講座:上巻』101頁の訳注4とその図を参照。慣れないフォトショップと格闘しながら、苦労して作った図です・・・)

その差異は、バイオリンに比べるとかなりのものだと思います。
いや、バイオリンをちょっとしかさわったことがない私が言うのもなんですが・・・。

バイオリンは弦の上に弓が載っていて、弓の重みは下にかかります。
しかも、弦にかかる弓の重みの方向は重力と同じです。
さらにその状況は、4本あるどの弦でも、だいたい同じです。

まあ、厳密には、弦によって多少角度は変わってくるのですが、それでも、二胡の内外弦のギャップは、それをはるかにしのぐということは自信を持って言えます。

私たちは、バイオリンの半分の機動力で(だって弦の本数だってバイオリンの半分だもん)、

バイオリンより小さいボディで(楽器全体の長さは二胡の方が長いけど、ほとんど竿だもん)、

バイオリンより研究が進んでいない状況で(だってバイオリンは研究し尽くされて18~19世紀には最高級の楽器ができているのに、二胡は楽器の起源こそ古いけど、本格的に研究されはじめたのは1950年代以降だもん)、

そんなままならない楽器をあやつって、音楽をかなでているんです!!

これって、ほんまにすごいことをやっているんです!!

ふたたび「そもそもなぜ強弱を・・・」

ぜいぜい・・・・ちょっと落ち着こう。

本筋に戻ります。

「強弱をつける-1」でも最後に力説しましたが、あえて繰り返します。

以上のことはすべて「テクニック」の範疇に属します。あくまでも「手段」です。

「手段」よりももっと大切なのは「目的」なんです。

ここでは、そもそもなぜ強弱をつけてひきたいのか、ということなんです。

「フォルテ、って書いてあるし・・・」

「いや、ずっと同じ大きさじゃダメだし・・・」

そういう声が聞こえてきそうですが、それってまるでボリューム調節ボタンを回すような感じですよね。もしよかったら、ちょっと楽器から離れて、自分のこととして考えてみて下さい。

例えば、大きい声を出したい時ってどんな時?

楽しいとき? びっくりしたとき? 急いでるとき? 自分を奮い立たせるとき? 誰かを応援するとき? 遠くの誰かに呼びかけるとき? イライラするとき? カッと怒りにかられたとき?

たぶん、いろんなシチュエーションが想像できるのではないでしょうか。

おんなじように、想像してみてください。

なんで譜面を作った人はここに「フォルテ」って書いたんだろう?

どんな気持ちを、どんな情景を表現したくて、大きな音が欲しかったんだろう?

そして、ストーリーや情景を思い描いて、それを表現するのに強弱が必要だとしたら、そこで「テクニック」の出番です!

ぜひ「意思」を持って、「表現」のために、強弱をつけてみてくださいね。

記事についてのご質問・取り上げて欲しいトピックのリクエスト・体験レッスンの問い合わせ等はこちらへどうぞ!

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家族がとった焼き肉屋のみーこの写真。

あまりにもかわいくて、しぶる家族を説き伏せて写真をもらっちゃいました。

あまりにもかわいくて、いまの私のスマホの待ち受けはコレです。

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